望章 : "望み"を繋げて……
『非日常警報。非日常警報。――――』
普段通りの平日の昼間。
いつものサイレンと共に、非日常の発生が告げられた。
慣れた様に、生徒が誘導に従って避難する。
そして望団は、いつもの様に出動する。
出動するのは、リョウとミユとハヤト。
他の団員は、対策拠点室で待機、又は指示。
そして、アヤカもデバイスを手にして外へと駆け出していった。
「4人……何故お前もいる?」
リョウにとって、アヤカが戦いの場に居ることは、違和感以外の何ものでも無かった。
「悪いかしら?」
「いや、そういう訳では無い。何か……新鮮な感じがしたからな!」
4人が、いつもの様にレバーに手をかける。
「「「Go! RisingStreet!」」」
リョウ以外がいつもの掛け声を発した。今まで掛け声を発しなかったアヤカもだ。
「な!? アヤカまで……ごー……らいしんぐすとりーと…………」
ブツブツと掛け声を発したリョウ。
やや不服そうなのだが、それでも、レバーを倒した。
いつもの姿だ。パーカーを羽織ったり、コートに帽子だったり、緑のスカーフを首に巻いたり……
そしてアヤカも、スーツデザインが変更されていた。
「黒いマントに、白地に黒帯のスーツ…………どういう意図かしら?」
「色を全て混ぜ合わせると、黒になる。それだけだ。……これ以上雑談をしている暇はないぞ」
質問に答えた直後、足元にある謎の機械が作動した。
「なにそれ!? ……私のにもある」
全員の足元に、その機械が備え付けられていた。
「こいつは、『フットブースター』だ。移動速度を大幅に上げる」
「これで、俺の力に頼らなくて済むのか」
「そういうことだ」
飛行機のエンジンの様な音を発するブースター。
4台分となると、相当な音量である。
「行き先は下関だ。……ブースト!」
加速していく。飛行機の離陸の様に。
飛び跳ねると、それは正に飛行機の離陸である。
「うぉぉぉぉぉぉ!?」
「空気抵抗すげぇな」
「完全に飛行機ね」
轟音が街中に響く。
低くて、吠えるような唸り。
「皆こっち見てる」
小倉駅前。その轟音がする方を、道行く人が見上げる。
その目線の先には、飛行(?)しているリョウ達がいた。
「うっせぇw」「撮れ撮れ!」「いっけー!」
色々混ざってはいるが、なんだかんだ言って盛り上がっていた。
門司駅から山陽本線で1駅の、下関駅。
そこから500m先の線路上に居たのは、巨大なかべちょろ(福岡ではヤモリとかトカゲとかをそう言う。今回はヤモリ)が徘徊していた。
「さて、どうしよっかな……」
ミユが、指示組に戦闘スタイルを聞く。
『かべちょろは、ピンチになると尻尾を捨てるね。それは世にも有名だけど、大きさが大きさだから、変に落とされると被害が出るかもしれないね』
応答したのは、タツヤだ。
「で……どうするの?」
『大きくなったとは言え、結局は顎が弱いから、何か硬いものを食わせて、逆に怯ませるといいかも……僕が行けば…………』
タツヤは、自分が出撃して、氷を食わせるつもりだったようだ。
と、ここでアヤカが名乗りを上げた。
「なら、私が氷属性で戦うわ」
『そういえば、そんなことできるんだっけ。宜しくです』
「任されたわ」
そして、アヤカのスーツの帯が水色になる。
「氷ね……一辺5mの立方体を幾つか用意すればいいかしら」
「まぁ、それでいいだろう」
やっと、戦闘が始まる。
「まずは、俺達がここに誘きよせる。アヤカはここで待機だ」
「あなたに指図されるのは…………まぁ、待つわ」
アヤカは、ホームの椅子に座り、待機することにした。
『水流の上に乗っけて、アヤカさんの元へと流しましょう!』
「「オッケー!」」
「しゃー! 流していくよー!」
ミユが、水流を生成し、
「乗っけるぞ!」
ハヤトが、風でかべちょろを水流の上に乗せる。
流されるかべちょろは、必死に逃げようとする。
それを……
「黙って流されろ」
リョウが、射撃して調整していった。
そうして、500m先に居るアヤカの元へと、かべちょろが流れ着いてくる。
既に、大量の氷が積まれていた。
暑さで少しずつ溶けているが、問題ない。
「来たわね。一気に全部食わせる」
アヤカによって、氷がミサイルの様に、かべちょろの口の中へと入り込んでいった。
「んぅふごぉォ……」
唸るかべちょろ。
アヤカが、少し不気味な笑みを浮かべて、レバーを引いた。
「少し格好付けさせて貰うわ。――ブリザードボンバー……!」
口内に大量に詰まった氷が、一気に破裂していく。
かべちょろは、首より先が消えてなくなった。
『え、そうする!?』
『結構ガサツだな』
『想定外……ですね』
「うるさいわね。倒したのだからいいでしょ。生体反応は消えたわ」
通信越しで聞こえるざわつきにイラつきながらも、かべちょろの討伐を告げた。
そうやって、非日常に立ち向かっていく。
それが、『"望み"を繋げる学生集団』、望団。
これからも、"望み"を繋いでいける……と、誰もがそう思っていた。
関門海峡を渡る船で門司港まで行き、門司港駅から枝光駅へと戻ろうとする4人。
「帰っちゃだめ?」
ここが自宅最寄り駅なミユ。
……帰りたがっている。
「逃げるな」
「(´・ω・`)」
リョウに戒められたミユ。
肩をすぼめて歩いていく。
と、向かい側からスーツ服姿の集団が。
「ミユ……って、お前らもだ。何故そんなに静かになっている?」
「前を見て。あれは……『独裁首相』だよ…………」
リョウの疑問にミユが、ハエの羽音程に小さい声で答えた。
「なっ…………」
「お前達が、噂の"望団"か」
5,60代の老人が、偉そうな口の利き方でリョウたちに話しかける。
「は、はi……」
「東山。何故ここに居る?」
「「「なっ!?!?!?」」」
ミユが返事した瞬間、リョウが呼び捨てでその名前を言い放った。
東山カズヒロ。
7年前までの日本の総理であり、最近、再び舞い戻ってきた男。
7年前に憲法をひっくり返し、最近になって、それを利用して独裁政権を成立させたその男。
「リョウ!? 殺されるよ!?」
「安心しろ。一応、こいつは俺を殺せないと思うからな」
ミユが心配そうに、リョウに近寄るが、リョウは脅えることは無かった。
アヤカとハヤトは、汗が止まらない。
「話を変える。前総理はどうした? 最近テレビで聞かないが」
「そいつなら消した。邪魔くさいしな」
軽々しく言ったのだが、これを意味することは、つまり……
「殺した、の間違いだろ?」
「ま、遠回しに言う必要は無いな。そうだ」
殺した。邪魔だから殺した。
「下らない……。話を戻す。何故、ここに居る?」
慣れているのか、呆れたような口で質問をするリョウ。
「"望団"を見に来た。大馬鹿息子を見に来るついでにな」
「息子!? おい、どういうことだ!? ミユ!? アヤカも! リョウもだ! ……まさか、偽名の件って……」
ミユとアヤカは、苦しい表情を見せた。
ハヤトは、以前話した偽名の件を思い出し、その可能性を察した。
そして、リョウは通信を開始し、対策拠点室にもその音声を伝えさせた。
「ハヤト、それに、これを聞いているお前達。俺は…………」
ハヤトも、対策拠点室に居る団員も、その言葉を聞いて、発する言葉を失った。
「この独裁野郎の隠し子だ。ミヅカもそうだ。俺の本名は、『東山リョウ』だ。西原なんて、偽名だ」
「は…………?」
膝から崩れたハヤト。
当然である。親友が、独裁政権を取り仕切る男の隠し子だと言うのだ。
「取り敢えず、北附に帰らせてもらう」
「なら、俺達もついて行く」
対策拠点室。
この衝撃は、声だけでも伝わった。
「嘘……?」
「東山……?!」
「何故だ……」
「え…………」
通信が聞こえてくる機械の前に立ち尽くす4人。
言葉を失い、4人とも、思考回路が回らなかった。
門司港駅。そこに来たのは、貸切列車だった。
灰色の2両編成の電車。急遽、取り寄せた。
「用意周到だな」
「殺されたくないからな」
一行は電車に乗り込んで、枝光へと向かっていった。
枝光駅に着いた。
全員が降りるが、そこの雰囲気は、非常に重々しかった。
「なぜ、こんなに暗いんだ?」
「いい加減自覚しろ、バカ親。お前がいるからだ」
リョウの発言で、ホーム中が冷えきった。
震える者もいる。動画をこっそりと撮る者もいる。
と、そこに来たのはカスミだった。
「偶然…………だね」
「元気がないな。……当然と言えるのかは知らないが」
「ねぇ……サユリが死んだのも、妹が死んだのも、全て私のせいだよね?」
リョウは、その発言を理解することが全くできなかった。
「何を言っている?」
「だから…………」
『1番のりばを、列車が通過します。危険ですから――――』
「まさかッ!?」
「じゃぁ、そういうことで――――」
さよなら。
「馬鹿野郎ッ!!」
トンネルから出て来た、白い特急。
迫り来る。
リョウは、カスミの手を掴んだ。
特急が、大きなブレーキ音を立てながら減速する。
そして、何かを轢くような音も聞こえてくる。
リョウが掴んだ手の先は………………
車体だけだった。
手首より先が無い。
「これは…………何なんだ…………」
その衝撃が、駅を支配する。
しかし、1人だけ、その状況を楽しんでいる者がいた。
「愚かだなぁ! これぞ正に『敗北者』だな!」
首相。
「愚かなのはお前だ!!!」
「うぐっ!?」
リョウの怒りの一発が、父親に直撃した。
『!?!?!?!?!?!?!?!?』
駅にいた者全員に、二つ目の衝撃が襲いかかる。
「リョウ……流石にまずいよ!!」
ミユが震えながらも、リョウに近寄るが、首相を守っていた警備員に止められた。
「警備員か……愚かだな。お前らも、こんな奴の手下なのか」
リョウは、警備員に取り押さえられ、そのまま何処かへと連れ去られて行った。
「そんな…………」
ミユが崩れた。
今の枝光駅で起きた事案は二つある。
一つは、カスミが自殺したこと。
もう一つは、リョウが捕まったこと。
"望み"は、すぐに断ち切られた。
"望み"は絶たれた。
リョウが、過去を『絶って』繋げた『望み』は、『絶望』へと、直ぐに変わってしまった。
これにて、ActDespairは完結。
やりたいことの3分の1しか出来ませんでした。許して
Act4は、8月に入ってからです。
また、会いましょう……




