絶章 : "絶つ"過去
皿倉山の頂上にある展望台。
アヤカを含めた団員は、そこでバーベキューをしていた。
「この夜景の中のコレが最高なんだよなぁ~!」
「タクミ……1番ノッてる……」
タクミが、集中的に肉にかぶりつく。
「ちょっと!? 肉ばっかり取らんでよ!」
「あーあーあーあー…………危ないよ?」
謎の競争心を芽生えさせ、ミハヤが負けじと、網の上の肉を取っていく。
「……肉残ってるか?」
「まぁ、あと50枚は残ってるよ」
「「何ィ!?」」
タクミとミハヤの目が輝きを放ち、涎を垂らしてミユとハヤトを見た。
「気色悪いなぁ……」
「そんなに欲張るなら、お肉あげないよ?」
「「すんません」」
タクミとミハヤが、急に大人しくなった。消火完了。
そんな6人から大分離れた場所に、リョウとアヤカは居た。
「お前……こんな所に呼び出して何の用だ?」
橙の明かりが照らす木々の中に、2人は立っている。
「もうそろそろ、あの時のことを白状したらいいじゃないかしら」
「何だそれは」
「覚えてないの? 2013年のクリスマスイブのことを」
それは、クリスマスイブの夜の孤児院の会食で起きた。
アヤカのクッキーが全て無くなっていた。
アヤカがリョウを疑うと、その口の中にはクッキーがあった。
それから、二人の仲は悪くなった――――
「ガキ臭いな。アレは俺のクッキーだがな」
疑いを全否定するリョウ。
アヤカが苛立ちを覚え始めた時――――
「何してるの? お肉無くなっちゃうよ?」
探しに来たミユが現れた。
アヤカが、唐突に質問を始めた。
「あのクリスマスイブのクッキー事件の犯人、知ってるかしら」
「あー! 言いそびれてたけど、あれは私のクッキーと間違えて食った奴だね」
「「お前かよ……」」
約5年半の誤解、ここで解かれる。
「言ってなくてごめん! まぁ、2人のことだし……まぁ…………」
ミユが、『今更何を言ってんだ』と思っていたのだが…………
「…………今思うと、本当に子供臭いことを言っていたみたいね。ごめんなさい」
「…………まぁ、犯人はミユだったということで片付ければ問題ないだろう」
「改めて、仲良く…………して貰いたい」
「…………"過去"は絶つ。だから、改めて仲良く…………」
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?!?!?!?!?」
今までの2人の関係に慣れていたミユが、衝撃を叫びで表した。
山中に響き渡るその叫びは、ミハヤら5人も呼び寄せた。
「何!? 何が何!?」
「すごい叫びだったぞ!?」
「響いてたね……」
「ビックリしちゃった……」
「おいおいどうした」
ミユも、アヤカも、リョウも、変な笑いを発したのであった……。
展望台。そこで、8人が横並びで夜景を眺めていた。
「本来ならば……サユリとミヅカも居たのだがな……」
リョウは、2人の"大切な人"を思い出した。
再び鬱な表情を見せるリョウに、アヤカがいつもの声音でこう言った。
「『過去は絶つ』……そうでしょ?」
リョウは僅かな笑みと共に、吐息をついた。
「そう……だよな。心を入れ替えないと、何もならないよな」
その8人の並び方は、リョウの両隣が少しばかりか空いているように見えた。
過去…………
俺には、捨て難い過去がある。
姉貴が殺され、親に捨てられた過去が。
その親も、親だ。
腐っている。
あいつは腐っている。
…………今日も、そいつをテレビで見た。
『統制法』なる物を可決させたらしい。
自分に対する悪評判は、すべて"消す"らしい。
腐っている。
あの独裁野郎の息子なんて、俺は腐っている……。
俺も、愚かな遺伝子を継いでいるのだろうか………………。




