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壊章 : "大切な人"の日記

黒崎の件は、被害の規模から、臨時ニュースで大々的に伝えられた。

その中で、ミヅカの死も伝えられた。

ネット上の反応は、望団の知名度が少しだけあるからなのか、

『嘘だろ……』とか、『また死んでしまったのか……』といったコメントが、過半数を占めていた。




7月15日の朝。


関連のニュースを見ていたリョウ。


……いつもは二人で居るこの家も、今は独りだけ。


「もっと……一緒に遊んでやりたかった…………もっと…………思い出を………………」


普段と全く変わりのないミヅカの部屋。

しかし、この部屋の主がいない。


……リョウは、あれから学校に行っていない。

非日常は度々発生していたのだが、リョウが参戦することは無かった。

さらに、バランス調整の影響で、コラテラルダメージも大きくなった。


不安定な歩き方をしながら、リョウがミヅカの机に辿り着いた。

そして、ミヅカの部屋の机の引き出しを開けた。

すると、謎のノートがあった。そのタイトルは……


『兄貴とのおもいで2019-2』


「今年分の2冊目……か……」


それを開くと、ミヅカが書き記した思い出が、幾つも残っていた。




2019年4月9日……行きたかったなぁ


今日は入学式……だけど、インフルのせいで行けなかったよ。

てか、兄貴がとんでもないことをやっちゃった。

これで有名人だね! よかったね! 兄貴!!




2019年4月27日……何してんの?


デバイスを盗まれたか何かは知らないけど、兄貴が夜遅くに帰ってきた。

ついつい怒ったり泣いたりしたけど…………嫌いになってないよね???

兄貴は人見知りが激しすぎるけどさぁ……。



2019年5月12日……やったぁ!


ハヤトと仲良くなれたっぽい!

初めての親友だぁ!

兄貴~! おめでと~!

……ただ、『ここで死ね』は無いっしょ。



2019年5月30日……まじかぁ


兄貴ががが…………会長とキスしただとぉ!? 舌も入れたァ!?

私の兄貴があああああああ!

……会長、こんな兄貴をよろしくおねがいしますぅ




リョウは、これらの日記を見て、少し懐かしい気分になった。


「毎日丁寧に、日記を書いてたんだな……」


そしてリョウは、文化祭のあった6月15日のページを開いた。




2019年6月15日……兄貴…………


兄貴の彼女である会長が亡くなってしまった。

本気で愛していたのに…………

立ち直れるのかな……?

穴を埋められるかはわからないけど、会長の代わりに戦いたい。

でも、兄貴に拒否されるだろうなぁ……

もう、兄貴の為なら死んでもいいのかなって思うようにもなってしまったけど……

ダメかな……?

それを兄貴に相談したいのだけど……

『死ぬな』とだけしか言わないのかな……?

それだけじゃ、分からないよ。伝わらないよ。


――――やっぱり、私が戦わないと………………




「何で……言わないんだよ…………何故だ………………」


読めば読む程、己の情けなさを悔やむリョウ。

壁を殴り、泣き喚いた。


と…………


「リョウ? 入っていいか?」


それに心配した隣人のハヤトが、家のドアをノックした。


「あぁ…………いいぞ」


ハヤトを受け入れ、リョウはミヅカの日記を見せた。


「ミヅカの……日記だ。お前とのことも書いてある」

「4月から6月分……」


「全て埋まることは……無い」


その日記は、6月21日分で途切れていた。




2019年6月21日……私も…………


今、兄貴が会長のデバイスの修理をしているっぽい。

使う人がいないのに……なんで修理しているんだろう?

…………本当は、戦わせたいのかな?

…………そうでなくても、あのデバイスは、私が使うから……


兄貴の為なら、何だってするから――――――




「リョウ……?」


ノートに滴る一滴の涙。

一滴が二滴になっていき、いつしか途切れることなく涙が滴り落ちていった。


「リョウ……ベランダだ。あの時みたいに、また話し合おう」


泣き崩れて力を失ったリョウの肩を乗せて、ベランダに出た。




「何が……『兄貴の為』だ……ふざけるなよ……お前が死んだら…………為にならないんだよ…………」


朝の門司に響く泣き声。


「それで落ち込んでたら……ミヅカの為にならないだろ」


ハヤトは、肩に手を乗せて慰めようとした。


「ふざけるな!! 俺は……ミヅカがいないと…………心が持たないんだよ…………」


柵を殴り、そのまま掴まって俯き、泣き続けるリョウ。


「俺だって……妹を殺された身なんだ。その時、リョウは俺を立ち直らせた。あのまま殺されようとした俺を、救ってくれた」

「それはお前の話だろ……」


「俺はリョウに救われた身だ。だから、救い返さないといけない。あの時、リョウが言った言葉をそのまま返す」



……生きろ。



「……ッ!?」


何かを吹き込まれたのか、リョウの涙が止まった。

崩れていたのだが、ゆっくりと立ち上がり、ハヤトの背を向ける形でこう言った。


「そうか……それは、全力で戦って、全力で生きることなのか……?」

「そうだろ。言葉の出典はリョウだし、自分自身が一番理解出来る筈だろ?」


「…………なら、今のが正解だな。そうならば、デバイスの改良をする。団員を全員招集する。アヤカも含めてな」




対策拠点室。アヤカを含め、10人……いや、8人が集まった。


「今まで、顔を出していなくて申し訳無かった」


この日の活動は、リョウの謝罪から始まった。


「まぁ……今まであんたらしくなかったけど……謝罪するあんたもあんたらしくない気がするけど……」

「つまり何だよ」

「ま、元に戻ったぽいからいっか」


普段はややキツく(???)接しているミハヤも、こればかりは嬉しそうだった。


「とにかくだ。デバイスの機能を改良する。今までのは……」


『強すぎた』


デバイスの強化によって、黒崎の被害を始め、戦闘による街のダメージが大きくなった。


「そういう事だから、攻撃力は現在の半分程度にし、防御力を大幅に向上させる。変身の負荷も、出来るだけ軽減させる」


機械にデバイスを置き、改良を開始したリョウ。

そんなリョウに、ミユが話しかけた。


「ねぇ……3つボタンがあるんだけど……活用するの?」


左のデバイスには、3つのボタンと画面がある。

だが、今はそれの『1番』しか使っていない。


「それも追加する。"強化"と"最後の手段"だ」




――――改良が終わった。時刻は、午後5時30分過ぎ。


「これで終わりだ。基本的に1番を使え。2番は絶体絶命の時に、3番を使う時は……俺と話し合いだ」


全員に手渡されたデバイスは、磨かれたように輝きを放ち、それは正しく新品同様の姿だった。


「今まで通りのやり方では難しいかもしれないが、俺も少しずつ戦線に復帰していく。よろしく頼む」


頭を下げたリョウに、ミユが下から覗き込むように笑顔を見せて、


「また、いつもの様に平常心で。で、明日を見て……ね?」


リョウに言葉をかけた。


「ああ。あれもこれも……全て過去だ。明日を見ないとな」


リョウも、僅かながらの笑顔と共に、言葉で返した。


アヤカも接近し、


「私の知っているあなたはもう居ないみたいね。気持ち悪く思うけど、それも『変化』なのね」


『変化』した事について、不本意ながらも言い放った。


「そんな話もあったな。それのきっかけが『デバイスの負荷』だしな。現状のそれで返却しないのは、受け入れられた……からなのか?」


『勿論』


リョウの問いかけに、全員が口を揃えて、そう答えた。



「ありがとう…………!」



僅かながらだった笑みは、いつしか満開の笑みへと変わっていったのだった。


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