1年生12月:生誕祭(9)
ベリアルは寮の自室で悩んでいた。
正直なところ、今日はかなり疲れた。
学園長との会食は緊張したし、新生徒会役員への売り込みやダンスの誘いでずっと誰彼に囲まれ、気の休まる時がなかった。
親の付き合いの関係で何人かとダンスを踊っているうちにディックは見当たらなくなるし、ラストダンスの誘いから逃げているうちに最後の花火が上がって、周りに振り回されているうちにパーティーが終わってしまった感じだ。
クラスメイトからの二次会の誘いを断り、ひとり寮に帰ろうと講堂を出るところでハンス先生に捕まった。
『このバッグ、マーカーくんに届けてよ~。忘れて帰っちゃったみたい。』
渡されたのはシンプルなクラッチバッグ。
『寮に居ると思うから。学生証も入ってるんだ、無いと困るよね?』
学生証は寮の鍵も兼ねていて、無くすと自分の部屋に入れない。
たまに学園で落としてしまい、友達の部屋に泊めてもらったなんて話を聞く。
そうして渡されたアリスの学生証とバッグを持って1年生寮に帰ってきたのだけど、しばらく1階のロビーや談話室をうろうろしても女子生徒が誰もいない。
明日で寮も冬休みになり、生徒は全員、明日までに帰宅することになっている。
パーティー参加者も二次会で王都に出て、そのまま帰省する生徒が多いようだった。
女子フロアのドアをノックしてみたが、誰の反応もない。
どうしようかと迷っているうちに、そろそろ時刻が9時を回りそうだ。
(帰ってきてるんだよな?)
魔力感知ができるハンス先生が言うのだから、アリスは寮にいるのだろう。
A組の他の女子3人はみんな今日のうちに帰宅したはずで、アリスが頼れそうな誰かはいないように思う。
部屋に入れないなら談話室にいるかと思ったけど見当たらない。
これ以上遅い時間に女子の部屋を訪ねるのはダメだろう。
ベリアルは女子フロアに上がり、もう一度ゲートドアを数回ノックしたが応答はない。
仕方なくアリスの学生証で鍵を開ける。
廊下には誰もいない。
アリスの部屋はベリアルの真上、フロアの一番奥だ。
素早く奥まで進んで、アリスの部屋をノックした。
「アリス、いる?」
小声で呼びかけても返事はない。
「失礼するよ。」
学生証で部屋の鍵を開けて中に入る。
部屋の中はベッドサイドに小さな灯りが1つあるだけで、あとはかなり暗かった。
机やベッドの配置はベリアルの部屋と同じだ。
(寝てる?)
ベッドから寝顔が聞こえる。
カーテンが開けっ放しの窓にはきちんと鍵がかかっている。
ベリアルはカーテンを閉めて、預かったクラッチバッグをサイドテーブルの上に置いた。
(華奢だな‥。)
くるまる毛布から顔だけがのぞいているのだけど、ベッドの盛り上がりが薄い。
枕に抱きついて眠るアリスの素顔はあどけなくて、小さな子供のようだった。
アリスの、一途に前を見つめる瞳が好きだ。
魔法初心者だと知ったときは驚いたけど、誰よりも真面目に授業を受けて、毎日図書館に通っている。
対抗戦で個人優勝するほどの努力を、ベリアルは素直に称賛する。
「アリスは凄いな。」
魔人『憤怒』との戦いはなんの役にもたてなかった。
同じ炎系で相性が悪かったとはいえ、そんな事態を想定していなかった自分の甘さに凹んだ。
なら、強くなる努力をするだけだ。
「今日はありがとう。」
オープニングダンスは楽しかった。
大人っぽいメイクと衣装のアリスは、いつものとおり凛とした姿勢でベリアルのリードに寄り添ってくれた。
無茶振りだけど、アリスなら大丈夫だと思ってしまったから。
眠るアリスの頬をそっとつつくと、アリスが『ん‥』と寝返りをうった。
毛布がずれて、キャミソールしか着ていないアリスの身体があらわになる。
細い首筋から肩、まっすぐ腰に向けてのラインが。
「ー!」
ベリアルは焦って毛布を引き上げ、アリスをくるんでから部屋を出た。
うっかり触れてしまった指先が、アリスの体温に浸食されたかのように熱かった。




