1年生12月:生誕祭(6)
貴賓ブースからフロアに戻る。
フロアはキャンドルの灯りにスローテンポな曲が流れていて、ロマンチックなムードになっていた。
ちょっと暗い壁際でカップルたちが囁きあっている。
(学校行事でもこういうのアリなんだよね。)
前世よりも結婚年齢が低く、15歳から基本的に大人として扱われるので、学園を卒業してすぐ結婚したり、在学中の婚約や授かり婚もあるとか。
(たまに距離が近くて恥ずかしいことがあるけど、みんなあれくらい普通なんだよね‥。)
今日のパーティーは外部スタッフが運営しているので、先生たちも楽しんでいるみたいだ。
「話終わった?」
先に出たはずのディックが待っていてくれた。
「待っていてくれたの?」
「ああ、ちょっとあんたに話が‥。」
そこで楽団の音楽がテンポアップして、周りの音が大きくなった。
「外に出ないか?」
12月の日暮れは早い。
まだ5時すぎだけどもう真っ暗で、植樹に飾られたイルミネーションが輝いている。
「綺麗‥!」
ひときわ大きな樹が、まるでクリスマスツリーのようにキラキラに飾られていた。
「こういうの好き?」
「うん。母とよく飾り付けしてたわ。」
母は季節感を大事にしていて、母子二人で貧しくても、ちょっとだけでも部屋を飾ってくれた。
「楽しかったなあ‥。」
折り紙で飾りを作ったり、チキンレッグをオーブンで焼いたり、チョコレートケーキにチャレンジしたり。
「それで、ブレイカーくんのお話しって?」
ツリーからディックにふり返ると、なんだかディックの表情が固いような。
ちょっと間があいて、ディックはわたしに向かってまっすぐに頭を下げた。
「カレンが失礼なことをして、申し訳なかった。」
カレン、カレン、‥ああ、演劇祭の頃に王都で会った。
「従姉妹さん?」
ベリアルを連れていきたくて、わたしに荷物を押し付けて帰そうとした無邪気な女の子。
もう1ヶ月くらい前のことだし、あったことも忘れてたくらいだ。
「あれくらい、気にしてないよ。」
「あの時、俺はすごく恥ずかしくなってしまって‥。」
「どうして? 彼女がしたことでしょう?」
「‥俺も、こんな風に身勝手な人間かもと思ったんだ‥。」
なんだかディックが小さな子供に見えた。
自分の気持ちをうまく出せないで、困っている子供。
「ずっと気にしてくれてたの?」
彼の顔を下から覗きこむように、わたしはそっとディックの手をとった。
「勝手だなんて思ったことないよ?」
‥偉そうだなと思ったことはあるけど、と心の中で付け足す。
「だから、なんであんたは‥!」
ディックの顔が一瞬泣きそうに歪んで。
わたしは彼に強く抱きしめられていた。
「生徒会長とのキスが頭から離れなくてー」
すっかり低くなった男の人の声。
「気にしないように思っても、あんたに言われたとおり周りに笑ってみたりしてるんだ。あんたのことなんて考えたくないのにっ‥!」
『あんたのことばかり考えているんだ。』
「なんであんなむきになって他人を助けるんだよ‥他人なんてどうでもいいだろ? あんたのこと全然わかんないよ‥今だってこんな気軽に俺に触って、こんなの‥!」
不意に投げつけられた熱い言葉。
抱きしめた腕が緩み、顔を上げると。
噛みつくような荒々しいキスが。
「‥ごめんっ‥。」
走り去るディックの足音。
会場から聞こえる音楽。
恋人たちの語らい。
麻痺した頭の片隅に、誰かの声が滑り込む。
ー『騎士の宣誓』受諾は保留されましたー




