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1年生12月:生誕祭(5)

ディックが細身のスーツに着替えて戻ってきた。

髪をオールバック風に整えて、ちょっと大人びて見えるような。


「お待たせしました。」

「お帰り。じゃあ料理を持ってきてもらおう。」

エリオスが手元のベルを鳴らす。


「失礼しま~す。」

カラカラとワゴンを運んできたのは学園長だった。

相変わらず純白のスーツに、胸ポケットから赤い薔薇がのぞく。

「っ、すみません、学園長!」

慌ててエリオスが立ち上がったのでわたしたちもそれにならう。

「いいよいいよ、座ってて。ちゃんと彼がサーブしてくれるから。」

学園長の後ろにスタッフがついてきてくれて‥と思ったらファンさんだった。

ボーイの制服を着ていても動きに無駄がない。

目の前に置かれたプレートに、サラダやチキンがバランスよく盛りつけられていく。


「さあさあ、それじゃ食べようか!」

聖女ダリアが教会でたくさん鶏を飼っていたとかで、生誕祭ではチキン料理がよく振るまわれる。

(‥聖女が可愛がってたなら食べちゃダメなんじゃないかな。)

でもフライドチキン大好きだし、ジューシーで美味しいし、まあいいか。


学園長が話さないので、わたしたちも黙々と食べすすめる。

「マーカーくん。」

「はい。」

「ちゃんとニンジンも食べようね、美味しいから。」

「‥はい、学園長。」

サラダからよけていたのがバレてしまった。

「そしてウォールくん、ランスくん、ブレイカーくん。」

学園長がわたしたちの顔を見回す。


「今年は君たちと縁があったみたいだね。まさか生徒会長との晩餐でも一緒になるなんて。」

パン、とひとつ手を叩いて。


「もうこれは、運命だよね!」


前々から思っていたけど、学園長はいつも動きが大きい。

「君たちにはなにか『宿命』があるんだよ! そう思わないかい、ファン?」

「‥自分にはわかりかねます。」

オーバーリアクションの学園長をスルーして、ファンさんは学園長のグラスにミネラルウォーターを注いだ。

そのままわたしたちのグラスにも注いで回る。

みんなの皿はほとんど空になっていた。


「‥デザート、男子諸君はいらないかな。新役員の売り込みもあるだろうし、君たちはちょっとフロアに顔を出したらどうだい? 新生徒会の話はメンバーの候補が固まってからにしよう。」


男子諸君は出ていってくれるかな?

そう言外にほのめかして。


「マーカーくんはチョコケーキとショートケーキ、どっちが好き? ファン、両方持ってきてくれる?」

ファンさんが一礼して下がり、一緒に男子3人も席をたつ。

「それでは学園長、一度失礼いたします。」

「うん、ウォールくん、1年間おつかれさま。また休み明けに呼ぶよ。」


そしてわたしと学園長の二人きり。


「ケーキをお持ちしました。」

ファンさんがわたしの前にケーキプレートとカフェオレを、学園長にホットコーヒーを置いて下がる。

「ファン、一応張っといて。」

何を、と思ったらフロアから聞こえる音が消えた。

「ちょっと昔話を聞いてほしくてね。」


「昔話、ですか?」

そういえば学園長っていくつなんだろう。

いつもテンション高めで若いイメージだけど、かなり偉い人だから50代くらい?


「僕ね、君のおじいさんと王国軍で一緒だったんだ。僕が魔術師で彼は騎士だったけど、けっこう同じとこに派遣されてなんとなく組むようになってね。」

祖父が騎士、というか剣士だったことは聞いている。

今でも鍛えているのか、年齢のわりにがっしりした身体をしている。


「彼が左足切断して退役するまでいいコンビだったんだよ! 魔物討伐率トップでさあ。彼が義足になっちゃって僕もほんと残念で。」

学園長と組んで魔物討伐してて左足が義足?

‥よく杖を持っているけれど、義足なのは知らなかった。


「で彼が退役するときにつまらないことで喧嘩しちゃったらさ、まあ根深くてぜんっぜん許してくれないんだよ。生まれた子供にも会わせてくれないし。もう40年近く会ってないけど、元気にしてる?」

「‥すみません、学園長とのことは初めて聞いたので‥。」

「ああ、やっぱりあいつなにも話してないんだ。」

あのくそじじい、とつぶやきが聞こえたけど気のせいだよね?


「あの、学園長はわたしの父に会ったことはないんですか?」

「魔術師団長になったときの就任式で見かけたくらいだね。だいたい僕がダリアの教頭やってたのに息子さんローズに入れるってひどいと思わない? 歴代魔術師団長でダリア出身じゃないってかなり珍しいんだよ。」


「父はダリアのOBじゃないんですか!?」


「うわびっくりした!」

思わず立ち上がったわたしに学園長がのけぞる。

「‥すみません、失礼しました。」

いやでもずっと父の母校と信じてたんですけど‥。


「ではなぜ祖父はわたしをこの学園に入れたのですか?」

「彼はなんて言ってた?」

「婿を探してきなさい、と。」

「マーカー子爵家は他に親族がいないからね。彼にとって後継ぎ問題は最重要事項なんだろう。」


「後継ぎですか‥。」

祖父には悪いけど、恋人の基準は魔王を倒せるかで考えてるから後継ぎ問題は当分棚上げしておこう。


「後継ぎ問題で親子仲が悪かったって噂あったし、お父さんのこと知りたいならお母さんに聞いてみたら?」

「そう、ですね。」


「僕は独身で子供も孫もいないからね。長く会ってなくても親友の家族だ、マーカーくんのことは僕が責任を持ってこの学園で預からせてもらうから。」


学園長は最後にそう言って、冷めたコーヒーを飲み干した。


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