1年生12月:生誕祭(4)
きらびやかに飾られた講堂に、着飾った生徒や先生たちがお互いに挨拶をしながら集まってくる。
ステージの楽団が流す優雅な演奏が会場を充たす。
「それではみなさま、ダリア魔法学園高等部、生誕祭パーティーを開始いたします!」
パンパンとクラッカーが鳴らされて、パーティーが始まった。
司会進行は3年生の副会長さん。
講堂の中央がダンススペースに空けられて、白い柵が張られていた。その周りに立食形式で軽食が準備されている。
講堂の2階と外には椅子と小さなテーブルが準備されていて、キャンドルが素敵な雰囲気だ。
まずは生徒会長がオープニングダンスを踊るのだけど、その相手役が。
「開幕はダリア伝統、新旧生徒会長2組によるワルツです!」
わたしは背筋を伸ばして、燕尾服のベリアルに手を重ねる。
「アリス、緊張してる?」
「当然でしょう。かなりの無茶振りと思いますけど。」
「ありがとう、感謝してる。」
‥耳元で囁かないで!
1年生のベリアルはこの伝統を終業式の後に教えられて、心底困ってしまったそうで。
『どなたか他にお誘いする方はいないんですか?』
ベリアルなら声かけ放題だと思ったのだけど。
『いないよ、アリスしか。友達は男ばっかだし。』
『‥まあ、そういうことでしたら‥。』
『助かるよ、ありがとう!』
それじゃ3時40分に寮の玄関で、と言われてばたばたと準備して、早めに講堂でスタンバイしていた。
アリスしかと言われて嬉しかったとか、喜ぶベリアルの笑顔がかわいかったとか。
「困ったときはお互いさまですわ。」
子爵令嬢の微笑みで、ベリアルのリードで足を進める。
たくさんの拍手の音がわたしの胸の音をかき消してくれる。
会場の明かりが絞られて、2組のペアにスポットライトが当たった。
楽団のゆったりした演奏が始まる。
(綺麗な動き‥。)
普段は気さくなベリアルだけど。
(こんな顔もするんだ。)
ランス公爵家は王都でもかなりの権力を持つ、大貴族の家柄だ。
堂々と踊るベリアルは、わたしの令嬢ごっこと格が違う優雅さがあった。
ベリアルのリードに気持ちを合わせると、驚くくらい軽やかにステップを踏めた。
「これは見事な‥。」
「どちらも素敵‥。」
3分弱のダンスが終わって周りに礼をすると、一面に喝采が降ってきた。
(楽しかった‥!)
自然と顔がほころんでしまう。
こんなに気持ちのいいダンスは初めて。
「会長~、次はわたしと踊ってくださーい!」
「ランス君、こっち向いて~!」
笑顔で手を振るベリアルの横顔が、知らない男の人みたいだった。
「さあ、この後はみなさまご自由にお楽しみください。なおみなさまお目当ての『ダリアの歌』、演奏は閉会前の6時頃を予定しています!」
会場の運営は外注されているみたいで、サービススタッフや警備員たちが大勢働いてくれている。
スタッフから差し出されたグラスを受け取る。
「ありがとうございます。」
そんなに長い時間じゃなかったのに、体が火照ってしまって冷たい炭酸水が美味しかった。
「しばらくこちらでおくつろぎください。」
一般生徒が入れない貴賓ブースへ案内される。
「わたしもいいんですか?」
「ええ。貴女も今戻るとダンスの申し込みで大変なことになりますよ。」
エリオスがさっと椅子を引いてくれる。
「失礼します‥。」
エリオスペアとわたしたちと、4人でテーブルを囲んだところで。
「あー、もう疲れた~!」
エリオスのパートナーがテーブルにうつ伏せて、ボブに揃えられた黒髪を取った。
そう、取ったのだ。
「ランス先輩たち全然気づかないし、ウォール先輩、これさすがに企画倒れでしょ。」
‥声が低い。
時間ぎりぎりに登場したエリオスのパートナーは、わたしよりちょっと背が高い、黒髪にエメラルドグリーンの瞳が綺麗で、キリッとひかれたルージュや強めのアイラインがクレオパトラを想像させるスレンダー美人さんと思っていたけど。
ウィッグの下から現れたのは、ネットをかぶせた鮮やかなグリーンの髪。
「「まさか、ディック!?」」
ベリアルとわたしの声がハモったところで、エリオスが笑いだした。
「いや、ははっ、会場の誰も気がつかないし‥、看板まで準備してたのに‥。」
ほら、と見せられた看板には『ドッキリ大成功!』の文字。
「まさかブレイカー君の女装スキルがこんなに高いなんて‥、いやいや、踊ってて見惚れました。」
ダリア魔法学園中等部3年生、ディック・メイビス・ブレイカー。
ベリアルを慕う後輩でペンタグラム杯中等部優勝者だけど、こんなことするキャラだったっけ?
「先輩趣味悪いって‥俺、化粧落としてくる。」
「はい、じきに学園長が来ますから、手早くお願いします。」
ディックが席を外したテーブルにカラフルなクッキーとお茶が準備された。
「どうやってディックを誘ったんですか?」
お茶もそこそこにベリアルが尋ねると。
「ブレイカー君から高等部の生誕祭に参加したいと相談がありまして。」
このパーティーは高等部に所属する者しか入れない。
講堂とその周辺は、身分証を見せないと入れないよう柵とゲートが設置されて、先生たちもチェックを受けていた。
「自分のパートナーなら部外者でも入れると提案したら、けっこう悩まれたみたいですけどね。」
「なんか俺、あいつらしくないっていうか‥。」
「そうですか? まあ若者はいろいろ悩む時期ですから。」
「あの、ウォール会長も若いですよね。」
「‥そうでしたね。」




