1年生11月:演劇祭(後半)
午後の部2年生のテーマは『恩返し』。
『鼠の恩返し』、『狐の恩返し』、『狸の恩返し』、『鶴の恩返し』、『地蔵の恩返し』‥日本昔ばなしだよね、これ。
2年A組は『鶴の恩返し』。
エリオスはそれはそれは美しいヒロイン(正体は鶴)を演じた。
「どうか今宵ひと晩、泊めてくださいませ‥。」
長い黒髪からのぞく儚げな眼差しと、対象的に真っ赤な口紅をひいた薄い唇がやけに色っぽい。
エリオスの女装とわかっていても、男子生徒たちが頬を染めてうつむく。
「ああ、足にひどい怪我をされている。それが治るまでどうぞゆっくりしてください。」
罠にかかった鶴を助けた男は紳士的にヒロインを別室に泊めて、それから何日か穏やかにすごしてなんだかんだと恋仲になってそのまま同棲が始まったのだけど。
「すみません、わたしおうちのこと何もできなくて‥。」
「いいんだよ、君が笑顔でいてくれるだけで僕は幸せなんだ。」
元が鶴なので家事がなにもできないヒロインは、せめて生活の足しにしてほしいと1枚の布を差し出す。
「これはなんと美しい布だ‥!」
風の魔法なのか舞台にはためいた大きな布は、見ようによって色が変わる不思議なもの。
スポットライトに煌めく布をたくさんの客が奪い合うように買い漁り、それを経て男のピュアな気持ちが歪んでいく。
「さあ、もっとこの布を織るんだ!」
モラハラ男に豹変した男に朝から晩まで機織りを強要され、すり減っていくヒロイン。
「どうして、わたしを助けてくれた優しい彼はもういなくなってしまったの‥。」
限界を迎えたヒロインは背中に大きな羽を広げると、まばゆい光とともに飛び立ってしまう。
照明の落ちた舞台には、儚げに白い羽が舞い落ちるだけだった。
「なんて綺麗な舞台‥!」
終幕後、リリカが感嘆のため息をついて手元のノートにいろいろメモし始める。
「布の輝きはサイドからホログラム系の魔法をかけてたと思うけど、最後のあの羽‥小さな羽だけを光らせるなんて無理よね。なにかの魔法薬かしら‥。」
リリカはストーリーより演出の方が気になるみたいだけど、スーザンとイマリもまた見所が違ってて。
「女装した生徒会長、萌えます‥!」
なるほど、スーザンは腐女子気質があるのね。
「男ってつきあったらあんな風に変わっちゃうのかな‥。」
イマリは春から後輩の男の子がダリアに受かったら付き合う予定で、彼が心配になったみたいだけど。
「‥ねえ、『鶴の恩返し』ってこんなストーリーだったかしら?」
「さあ? 原典を知らないからわからないわ。まあストーリーは各クラスアレンジできるから。でもね、」
リリカはメモ帳をパタンと閉じると。
「ストーリーを演出家好みに変えちゃうのは邪道だと思うのよ。制約の中でどれだけ自己を表現できるかが勝負じゃない?」
キラキラした目のリリカに、わたしは前世を思い出した。
空手で同じ形を何十回、何百回も繰り返し練習していたあの頃。
インターハイ優勝者の映像を穴の空くほど見返して、自分の一挙手一投足、隅々まで気を張り巡らせて。
そうして自分の形がピタリとはまったときの快感は最高だった。
「ええ、自分との勝負よね。」
「そうなのよ! だけどキャサリンはいつも型をぶち壊してしまって‥。」
言いかけたリリカの目が泳ぐ。
「わたしね、ずっと『華がない』って言われてたの。」
お前の動きは小さい、真面目なだけでつまらない。
監督の言葉にどうすることもできなかったから、ただひたすら稽古を重ねた。
インターハイで優勝して、自分に少し自信が持てて、ようやく気づけたことは。
「華のある友達がすごく羨ましくて妬んでいたけど、だけど同じくらい憧れたし好きだったわ。」
彼女みたいになりたい、なれない、でもなりたい。
そんな風に揺れ動いていた気持ちを、自分で抱きしめることができた。
「ねえリリカ、キャサリンの自由さってあそこまでいくと清々しかったわよね?」
リリカはふっと力を抜いて微笑んだ。
「‥そうね、わたしもわりと好きだったの。ずうっと二人だけだったから、忘れてしまっていたわ。」
「ええ、わたしたちもっと早くにお友達になれていたらよかったわね。」
「次は2年B組で『地蔵の恩返し』です!」
アナウンスとともにブザーが鳴り、ステージの幕が上がる。
舞台に並んだ6人のお地蔵さんに扮した生徒に『傘地蔵じゃん』と突っ込みたい気持ちを飲み込んで、友達と魔法の舞台を楽しむことにした。
ようやくクラスの女子とお友達になれた気がしてすごく嬉しかった。
恋愛イベントは全然進んでないけど、でもきっと大丈夫!
来月12月24日は恋人たちの日、『ダリア生誕祭』。
ここでフラグを立ててみせる!




