1年生11月:演劇祭(幕間)
「これで午前の部を終了します。午後の部は1時30分から開演ですので、出演クラスは1時20分までにスタンバイを終えてください。」
1年生5クラスの舞台が終わって、生徒会から昼休憩のアナウンスが流れた。
「お昼ごはん、どうしよう?」
「イマリはおうちの人来てるんじゃないの?」
なんたってイマリは主演だ。
「ママとパパはもう帰るみたい。王都に行きたいお店があるんだって。」
「ねえ、よかったらわたしたちと一緒に食べない?」
声をかけてきたのはリリカだった。
リリカの後ろで、スーザンが大きなバスケットを持っている。
「スーザンのお父様がみなさんでどうぞって。」
スーザン・サージェント、わたしはあまり話したことがないクラスメイトだ。
イマリと同じ班で、補助魔法が得意な大人しい子。
「え~嬉しい!」
イマリが手をたたく。
「スーザンのおうち、すっごい人気のレストランなんだよ。」
スーザンが恥ずかしそうにうなずく。
「‥よかったら中庭で、食べませんか‥?」
恐る恐るの提案にわたしは笑顔で頷くと、重そうなバスケットに手をかけた。
「一緒に持つわ。」
「ええっ、いけません、貴族のお嬢様にそんなっ。」
スーザンにすごい勢いで言われて、わたしはイマリを見つめる。
「‥わたし、お嬢様?」
イマリは小さく首をかしげると、スーザンに視線を移して。
「スーザンはずっとアリスと話したかったんだよね。」
「イマリさん、それは内緒だって‥!」
イマリは焦るスーザンからバスケットを奪う。
「ね、早く行こうよ。」
「そうね、昼休みがもったいないわ。」
リリカに促されて、わたしたちは天気のいい外へ出た。
中庭の木の下にシートを広げて、みんなで輪になって座る。
バスケットからサーモンのサンドイッチやフライドポテトが並べられて、紅茶とスコーンも準備されていた。
「いい香り‥。」
ポットから注がれたダージリンの香りが気分を和らげてくれる。
「いただきま~す!」
サーモンのタルタルあえサンドイッチがこの上なく美味。
「んー、美味しい~♪」
「アリス様、こちらも人気なのでよかったら‥。」
スーザンがあれこれ世話を焼いてくれようとするのだけど。
「あのね、わたしは大丈夫ですからスーザンも一緒に食べましょう?」
「アリス様がわたしにお気遣いくださるなんて‥。」
スーザンの顔に歓喜の表情が浮かぶ。
いやそうじゃなくて。
「同じクラスのお友達ですし、どうぞ『アリス』と呼んで。」
「スーザンは尽くし体質なのよ。」
3つ目のサンドイッチを頬張りながら、リリカが教えてくれる。
「忍耐力がすごいの。イマリの人魚の衣装、スーザンがスパンコールを全部縫ってくれたのよ。」
『人魚姫』序盤のシーン、イマリの人魚の尾びれがキラキラと波の隙間から輝いていた。
「1年A組の舞台は素晴らしいできばえでしたね。」
ん?
背中にずしっとした重みと、馴染みのある声と、首筋にかかる甘い息。
「リリカ・ノービスさんですね。貴女の演出はとても美しかった。」
だからわたしの背中から、頭に顎を乗せてしゃべらないで!
「エリオス先輩、いつもいつも、近いですっ!」
「アリスはいつまでも照れますね。」
「さりげなくハグしないでください、セクハラです!」
「セクハラだなんて心外ですね。」
すました台詞で逆に体に回された腕に力が込められて、エリオスの厚みのある体がぴったりとくっつく。
スーザンはわたしたちを見て真っ赤になっているし、イマリもリリカもまじまじと見てないで何か言って!
「ねえイマリ、噂は本当なの?」
「んー、嘘ではないらしいけど、彼氏彼女って感じじゃないのよね~。」
ひそひそ話さないで、そして噂ってなに!?
エリオスの胸にすっぽりと包まれて、温もりが染みこんでくる。
ふわっといい匂いがして、うっかり気を許してしまいそうになる。
実力行使で離れてもらうしかないと肘鉄を構えようとしたら、スッとエリオスが腕を解いた。
「女子会のお邪魔をしてしまってすみません。午後からの2年生の部も楽しんでくださいね。」
「はい、生徒会長は何の役で出られるんでしょう?」
「役は秘密です。2年A組の舞台で探してくださいね。」
エリオスはポンポンとわたしの頭を撫でてから、講堂の方へ去っていった。
「ああアリス様、お似合いです!」
「あ、このラスク美味しい~♪」
「初めてこんな近くで会長を見たけど、さすが綺麗な顔ねー。」
「ねえ、わたしとエリオス先輩の噂ってなんなの‥。」
『キーンコーンカーンコーン』
1時のチャイムが鳴り響く。
三人は顔を見合わせてから、イマリがまだ残っているお菓子に手を伸ばした。
「まあ噂だし、それより早く食べないと時間なくなっちゃうわよ。」
「そうね、この話はまた今度にしましょうか。」
「アリス様、このパイがお店で一番人気なんです!」
旬の林檎を使ったアップルパイは本当に美味しくて。
それから午後の開始時間ギリギリまで、わたしたちはお菓子を食べてしまった。




