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1年生4月:入学式後(2)

図書館の中で騒ぐわけにもいかないので、おとなしく彼に引っ張られてみる。

どこに行くのかと思っていると、受付を通って外に連れ出されてしまった。

受付台にはベリアルと交代したのか、知らない男子生徒が座っていた。

 

彼は図書館外にある木製ベンチを指し、ちょっと考えて日陰のベンチに指し替え、『ちょっと座れ。』と言った。

図書館では気づかなかったけど、外で見ると彼の髪も瞳も美しいエメラルドグリーンだった。

わたしより10センチぐらい背が低く、体の線が細い。


(綺麗な顔‥!)


とても整っているけど、どこかまだ幼さが残る顔立ち。

制服のタイは緑のストライプ、中等部3年生だ。


「あの、何で命令口調なの? わたし、高等部よ? 先輩だよ?」

「あんた、俺より魔法下手だろ。」


それはそうだろうけれども。

押し切られてベンチに座ってしまったわたしの前に立ち、彼はまず頭を下げた。

「そもそもは前を見ずに梯子にぶつかった俺が悪かった。ごめん。」


え、謝った、の?


「謝るとか意外‥。」

「声に出すか、普通。」

まあ失礼なのはお互いさまか、と呟き、

「あと、あんたが勝手に梯子を動かして勝手に落ちても、生徒のケガは図書館の職員が責任をとらされる。だから本に届かないときはちゃんと職員に声をかけろ。」


‥ああ、そういうことか。

わたしはわざわざ呼んだら悪いと思ったけど、勝手に使ってケガをしたら逆に迷惑をかけるんだ。


「ごめんなさい…。」

「わかってもらえたならいい。」

彼は頷いて図書館に戻ろうとし、ちょっと迷うようなためらいの後、もう一度わたしに話しかける。


「あんたがマーカー魔術師団長の娘?」


その問いかけには、造り笑いでこう答えるしかない。

「そうみたいよ?」


冷水をかけられたみたいに、胸の奥がきゅっと縮んだ。

急に空気がぎこちなくなる。貴族令嬢の時間だ。


「先ほどは失礼いたしました。アリス・エアル・マーカーと申します。」

ベンチから立ち上がり、彼に丁寧な礼をする。

「どちらかでお会いいたしましたかしら?」


「あ、いや…悪い、失礼な聞き方だった。」

切り替わった雰囲気に彼は一瞬たじろいだけど、真面目な表情で礼を返した。


「俺はディック・メイビス・ブレイカー。死んだ叔父が魔王討伐隊でお父上にお世話になったらしくて、一応挨拶をと思ったんだ。」


『ディック・メイビス・ブレイカー』

ヒロインの1学年下の後輩で、水系魔法の天才。

合理的な思考で実力主義者、年下だがパーティーの参謀的存在。

彼はヒロインが2年生の4月から登場する。


そう、今日は1年生の4月、入学式当日。


「言葉が足りなかった、ごめん。」

彼は今度こそ図書館へ戻っていった。


「…違う。」

わたしはベンチにもう一度座る。

ディックとの出会いは1年後、彼の入学式だったはず。

主席入学のディックが新入生代表挨拶をするための事前打ち合わせが、ヒロインとの初めての出会い。


「違う、違う…。」


どうして違う?

設定はどこまで有効?


わたしはどうしたらいい?


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