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1年生10月:父娘

「『α結界』解除! すぐに救護体制に入れ!」

ダリア学園長の指示ですぐに結界が解除され、涼やかな風が戦場を通り抜けた。

「夕焼け‥?」

見上げる空が赤い。

相変わらず頭が痛いけど、目は回復したのか、魔力封鎖に慣れたのか、わりと普通に見えるようになっていた。


「アリスー、クララ、役にたった?」

10歳くらいの美少女姿のクララだけど、両腕はぐにゃぐにゃと触手になっていた。

触手にさわると、ぷるぷるしていて冷たい。


「クララありがとう。とても助かったし、可愛いわね。」

「海皇さまがね、アリスの妹設定? がいいって。可愛い?」

「とても。寝転んだままのお話でごめんなさい。」

「アリス、力ぜんぜん無くなった?」

「今はからっぽ。」


クララは倒れたままのわたしをじっと見て、元気になったら遊んでね、と言い残して還ってしまった。

回復したら喚んであげよう。


「キャシー、キャシー‥!」


男の人の泣き声がする。

「ごめんな、わしが悪かったんや‥。」

「離れてください、彼女の治療を‥。」

「もういいんや、こんな姿になってしもうて、このまま死なせてやってください‥。」


は?


生きてる、の?


「アリス、治療に連れていくよ。」

ベリアルがわたしの横にかがんで、そっと抱き上げようとする。

「自分で歩きたいから、立ち上がるのを手伝ってもらえないかしら。」

「ああ。」


ベリアルは背中を支えながら、自分の肩にもたれさせて立ち上がらせてくれた。

「エリオス先輩は?」

「生徒会の人たちが治療に連れていった。珍しくふらふらだったって。」

なにか彼も反動があったんだろう。


「キャサリンは?」


ベリアルは体を傾けて向きを変えてくれた。

ローズ魔法学園の制服で競技ステージに仰向けに倒れている少女。

肌が赤黒く、ざらっとした質感が人ならざる印象を与える。

その胸にはもう何も刺さっていない。


「ファンさんが『魔核コア』を砕いたけど、肺がダメになったって。」

両手首は止血されていたけれど、胸元は血で真っ赤に染まっていた。

目は閉じられたまま、意識はないようだった。


「多分ハイ・ポーションでも治療がおいつかない。」

ポーションはかけるより飲むほうが効果が高い。

ただ『瀕死』状態だと飲むことができず、治癒魔法でしか難しくなる。

「『蘇生リザシエイション』は?」

「そんなの使えるのは大神殿の神官長さまぐらいだよ。」


いいえ、そうじゃない。

「ベリアル、キャサリンのところに連れていってほしいの。」

「何で。」

「お願い。」


「‥どうせ、助かりません。長引かせずに逝かせてやってください。」

「しかし、まだ可能性が‥。」

「お願いします、後生です‥。」


アーチャー会長はキャサリンの体にすがり付き、治療を拒否している。

わたしは腕力でアーチャー会長を引き剥がすと、思いきり右手で頬を平手打ちした。

「アリス!?」

「お嬢さん!」


アーチャー会長はわたしの足元に土下座した。

「ほんますいませんでした! わたしらが甘やかしたばっかりにえろうご迷惑かけて。」

「だから見殺しにするの?」

「違います、助ける手立てがないんです。」


「持ってるでしょう、『蘇生リザシエイション』。」


夏にアーチャー会長と取引をした。

わたしが『蘇生リザシエイション』を込めた『魔法瓶ポット』。

死んでいなければ即座に全回復する希少魔法。

こういう人なら、必ず自分用を携帯するはず。


「‥このまま助かっても、キャサリンに居場所なんかありません。」

「それをあなたが決めないでよ!」


わたしは感情にまかせて怒鳴りつけていた。


「死んだらおしまいなのよ! 居場所なんて別のとこで作ったらいいわ!」

「‥キャシーはそんなこと耐えられません。」

「勝手に決めないで! 耐えられないならあなたが支えなさいよ!」


キャサリンはたしかに甘やかされたバカ娘だけど。


「たくさん、写真飾ってたでしょう? キャサリンを大事にしてきたんでしょう?」


前に通されたアーチャー商会の会長室には、赤ん坊のときからのキャサリンの写真がところ狭しと飾られていた。


「こないなことしでかして、娘に生きていてほしいなんて‥。」

「言いなさいよ、あなたしかキャサリンを守れないのよ!」


何に躊躇しているのかわからない。

わたしはアーチャー会長の投げ出されている鞄に手を伸ばした。

「もういい、わたしがやる。」

勝手に蓋を開けて、中身を地面にぶちまける。

書類や財布に紛れて、銀色の小瓶が転がり出た。


筒の表面には『蘇生リザシエイション』の文字。


「‥わしが、やります‥。」


小瓶に無骨な手が伸びた。


「わしが、助けます‥!」


アーチャー会長は真っ赤に染まったキャサリンの胸元に小瓶を向けて、震える指で蓋を外した。


「ああ‥。」

キャサリンの体が金色に光り、赤黒く変色した肌が元の色白に戻る。

失われた両手は欠けたままだけど、手首の止血帯を解くと断面はきれいに治癒していた。


「キャシー‥。」

規則正しい呼吸音が父親を安堵させる。


「一緒に、償おうな‥。」


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