1年生10月:決勝戦
決勝戦ステージの周りにバタバタと来賓席が設置された。
五大魔法学園対抗戦『ペンタグラム杯』2日目高等部個人戦決勝。
明日の団体戦代表チームと学園長や教頭、PTA会長たちが各学園ごとにステージ砂かぶり席で観戦する。
ダリア魔法学園の席には学園長と護衛のファンさん、ベリアルたち選抜選手5名と、ハンス先生が座っている。
攻略キャラ勢ぞろいって‥うん、気にしないようにしよう。
「みなさまお待たせしました! いよいよ決勝戦が始まります! 最終戦の召喚魔物は『屍食鬼』! 観客席には結界で伝わりませんが、かなりの悪臭が予想されます!」
司会者が高らかと開始を宣言して、選手紹介を始めた。
「今年の決勝戦はなんと1年生女子対決! 赤、ローズ魔法学園1年、キャサリン・アーチャー! アーチャー商会の跡取り娘にして魔道具開発の鬼才、全ての敵を凍りつかせる『黒薔薇姫』!」
「よっ、キャシー、待ってたで!!」
ずいぶん近くからキャサリンの父親の声がすると思ったら、ローズの来賓席にちゃっかり座っていた。
ローズに転校してたのも驚いたけど、ほんとお金の力って凄い。
なのにキャサリンは声援に応えず、仁王立ちでわたしを睨んでいる。
「白、ダリア魔法学園1年、アリス・エアル・マーカー! みなさんご存知の英雄、ジャスパー・イオス・マーカー魔術師団長の忘れ形見、全ての敵を右腕一本でぶち破る闘う子爵令嬢、人呼んで『拳聖姫』だー!」
ちょっと初耳なんだけど、それ誰が呼んでるの?!
「双方、構え!」
「は、はい!」
微妙な二つ名に突っ込みたいところだけど、審判の合図で競技ステージに上がる。
30メートル四方のステージ四隅に立つ先生たちが結界を起動させるのと同時に、中央の召喚魔方陣が光り、置かれた黒水晶から黒煙が溢れだして魔物の姿を形どり始める。
召喚中は魔物が完成したらすぐ魔法が発動できるよう、対戦相手の様子を伺いながら魔力を集中させるのだけど。
キャサリンはすたすたと魔方陣に近寄り、両腕を黒煙の中に突っ込んだ。
え? 何をしてるの?
「召喚、『憤怒』!!!」
「下がりなさい!」
審判の先生が駆け寄ってキャサリンを魔方陣から引き戻した時には遅かった。
『屍食鬼』に変化するはずだった黒煙が、キャサリンが両手首にはめた黒のバングルに吸い込まれていく。
それを見て先生はすぐにキャサリンから手を放して下がった。
「マーカー選手も離れて!」
「どういうことですか?!」
「これは『魔人召喚』だ!」
「逃がさない。」
展開についていけていないわたしの腕に銀色の紐が巻き付き、強い力で魔方陣の方へ引っ張られる。
これはキャサリンの髪?
銀色の縦ロールたちが、まるで触手のように伸びて自在に動いているのだ。
「ちょっと、なんで人間やめてるのよ!」
「うるさいうるさいうるさーい! あんたさえいなければ、全部上手くいってたのに!」
キャサリンがヒステリックに叫ぶと、黒い炎がキャサリンの体を覆って空に向かって立ち昇った!
「なんだなんだー? 競技ステージで何が起こっている?」
「観客席の『α結界』は死守しろ! 観客席の学園関係者は観客の誘導避難! 聞こえたか?!」
呑気なアナウンスにダリア学園長の怒号が飛んだ。
「来賓席も全員避難しろ! ファン、うちの生徒たちを任せた!」
「キャシー、キャシー! どうなっとるんや!」
「ローズの、いいからその成金を黙らせろ!」
「ああ、よい『怒り』が満ちているな。」
その落ち着いた声は、なぜかアリーナ中に響き渡った。
わたしの腕を絡める銀色の髪が、ぞわりと黒に染まってゆく。
「『聖域』!」
気持ち悪さに、とっさに結界を発動していた。
結界の光がキャサリンの髪を焼き切って、わたしを守る立方体が完成する。
「なるほど、これが『聖女』の魔法。なかなかに厄介だな。」
黒い炎が消えてわたしの目の前に立っていたのは、キャサリンの面影を残した背の高い男性だった。
「ああ、これはいい器だ‥久しぶりに楽しもうか。」
「マーカー選手、逃げなさい!」
わたしを庇うように間に入ってきた先生が、無造作な彼の腕の振りで観客席スタンドの壁まで叩き飛ばされた。
「無粋な。魔人が一将『憤怒』の前に勝手に立つなど。」
「‥楽しむって、何するつもり? 」
右拳の『聖女の刻印』はすでに起動してナックル形状にしてある。
「もちろん」
何でもないことのように、彼は髪を耳にかけながらさらりと言った。
「殺戮だ。」




