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1年生10月:対抗戦(5)【改稿】

「あいつ、準決勝まで残ったんだ。」

「ディックさ、先輩を『あいつ』呼びはやめろって。」

「ランス先輩にはちゃんとしてる。」

「他の先輩にもしろよ。」

「俺よりレベル低いやつにはヤだ。」

「‥ガキ‥。」


観客席の最前列には、各学園代表チームが陣取っている。

ベリアルたちダリア代表チームも、昨日の中等部個人戦で優勝を飾ったディック・メイビス・ブレイカーを加えた5人で決勝トーナメントを観戦していた。

今日の高等部個人戦、ダリア以外は学園1位が決定して代表チーム6名が確定している。

これから始まる準決勝の勝者が、ダリア代表チームの最後の1人だ。


「ウォール先輩はどっちが勝つと思いますか?」

ベリアルは左隣に座るエリオスに話を振った。

代表選抜の4人のうち、ベリアル以外の3人はみんな生徒会メンバーだ。

生徒会長の2年生エリオス・J・ウォール、2年生の会計と3年生の書記。

生徒会で唯一代表チームに選ばれなかった副会長のマギ・ブライドは、個人戦を準決勝まで勝ち残っていた。


「もちろん、ブライド先輩を応援しますよ。」

「ブライド先輩の方が強いですか?」

ベリアルの問いかけに、エリオスは首を傾げる。

「先輩の代表席を奪ったのは君と思いますが?」


「俺はアリスちゃんを応援するよ! 」

エリオスの左横から、会計のジミー・ライオネルが口を挟んできた。

「女の子が一緒のほうが楽しいじゃん?」

ニカッと笑うジミーの鼻をエリオスが真顔で摘まむ。


「君が『アリスちゃん』なんて呼ぶのはやめてください。」


「痛って‥、エリオスはブライド先輩側だろ?」

「判官贔屓で応援するだけですよ。」

「はんがん?」

「弱い方を応援することにしてるんです。」


エリオスの言葉にジミーはやれやれと肩をすくめる。

「‥ほんと、エリオスってブライド先輩に容赦ないな。」

「君よりはマシです。」


この二人は仲がいいんだろうと思いながら、ベリアルは気になったことを聞いてみる。

「それって、アリスの方が強いってことですか?」


「当然。彼女はランスくんにも負けませんよ。」

言い切ったエリオスに、即座にディックが反応した。

「それはない、ランス先輩があいつより全然上。」

「‥ブレイカーくんはずいぶんランスくんに懐いている。」

「すみません先輩方、ディックにはちゃんとさせるんで!」

ベリアルはぐいっとディックの頭を押し戻す。

「ほらちゃんと応援しろよ、準決勝戦!」


「赤、ダリア魔法学園3年、マギ・ブライド、白、ダリア魔法学園1年、アリス・エアル・マーカー!」

審判の先生に呼ばれて、わたしたちは競技ステージに上がる。

対戦相手は一度話したことがある、生徒会副会長さんだ。

ずっと会場が違ったからどういう戦い方かよくわからない。


明日の団体戦に出るには、ダリア魔法学園参加者の中で1位にならないといけない。

これは絶対に落とせない試合だ。


中央の召喚魔法陣を前に、お高いに少し距離をとってのスタンバイ。

黒水晶から黒煙が溢れだし、それがむくむくとキングゴブリンの姿に固まっていく。


「始め!」


「『炎爆撃ボマー』!」

開始の合図と共に彼が叫び、二十数個の炎の玉が出現したキングゴブリンに一直線に襲いかかった。

爆撃魔法が炸裂し、一面に白い煙が立ち込めたその中から、魔物が消滅した証の黒い煙が一筋、空へ上がっていく。


「クリーンヒットォ! キングゴブリンを瞬殺だ!!」

開始して10秒足らず、司会者が叫ぶと観客席がどっと沸いた。

彼は観客席に向かって笑顔で手を上げようとしたけれど。


審判の旗は白。


「白!白! アリス・エアル・マーカー選手の勝利だー!!」


「‥なんで、お前の判定なんだ!」

わたしに掴みかかろうとした彼を審判の先生が止める。

「キングゴブリンを倒したのは彼女の攻撃だ。」

「はぁ?」


わたしを起点に発動する結界魔法『聖域サンクチュアリ』、これをキングゴブリンと対戦相手の間に向かって発動させた。

この結界、他の結界魔法と違って発動していることがわかりにくい。

ほぼ透明の結界で彼の魔法を防いでから『聖拳突』でキングゴブリンを撃ち砕く、対抗戦を勝ち上がるための必勝コンボ。


‥のはずが、『聖域サンクチュアリ』が『炎爆撃ボマー』に耐えられず砕けて、彼の魔法が3分の1くらいキングゴブリンにヒットしたから、わたしが勝てたのはギリギリだった。


「そんな‥。」

わたしは彼に一礼して、競技ステージを降りて白の控えスペースへ戻る。

「ほんとに、イヤな女。」

待機しているキャサリンの台詞が、やけに耳に残った。


「決勝戦は15分後に開始だ。」

「はい、わかりました。‥ファンさん?」

控えの椅子に座っていたわたしに言付けに来たのは、護衛官のファンさんだった。

「で学園長からの相談だが、『棄権』することはできないか?」

「『棄権』?」

「大神殿が観戦に来てる。あまりお前を見せたくないそうだ。」


いつも思うけど、学園長って連絡が遅くない?


「いまさら言われても無理です。」

イラッとして口調がついきつくなってしまった。


「だな‥試合前に悪かった。」

頭を下げるファンさんにわたしが慌てる。

「いいえ、ファンさんもお仕事ですし。」

「さっきのコンボは滑らかでよかった。魔法と武闘技の切り替えがうまい。よく練習したな。」


「‥なんで今日は褒めてくれるんです?」

「『勝つ』ために策を練るのは当然。相手の負けを気に病むのは失礼だ。」

「それはそうですけど。」


副会長さんからしたら、自分の魔法を対戦相手が妨害してくるなんて予想外だっただろう。


「わたしは直接対決の方がいいです。」

「馬鹿、人に魔法攻撃なんかしたら『魔人』に堕ちるぞ。」

そういえば学園の実技講座でそんな注意を受けた気がする。

攻撃魔法を使えないからすっかり忘れていた。


「お前の武闘技は真っ直ぐで、俺は好きだ。」

自分に負けるなよ、とファンさんは大きな手でわたしの頭をなでて、戻っていった。


「ファンさんって大人だなぁ。」

反省するふりして落ち込んでるほうがラクなのを見透かされてしまった。


「よしっ!」

わたしはポニーテールを引っ張って、緩んだ髪を整える。

目標の代表戦出場はクリア。

このままキャサリンにも勝って、この世界にアリスありと見せつけてやろうじゃない!


魔王の復活まで、あと1年と少し。

わたしはアリス・エアル・マーカー子爵令嬢。


必ずこの世界を守ってみせる!


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