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1年生4月:入学式後(1)

お昼前に緑化委員の説明が終わり、わたしはイマリと寮に向かった。

高等部校舎から歩いて15分程。

ダリア魔法学園高等部は全寮制で、3学年合計で250名余りが生活する。

入学時は100名だが、脱落する生徒が出るためだ。

女子は全学年で50名程度しかいないため女子専用棟はなく、建物のフロア別で管理される。


入学式受付で渡された磁気カードのような学生証は、学園、寮、私室全ての鍵なので絶対に無くさないように、とハンス先生から念を押された。

寮は4階建てが3棟、コの字型に建てられていて、学年ごとに別棟だ。

一番手前の1年生棟は1階が食堂や談話室などの共有スペース、2階からが生徒の部屋になり、女子は最上階の4階が割り当てられる。


玄関の認証機に学生証をかざすと、カチャリと鍵が開く音がした。

壁一面の靴箱には名前が振られていて、ここでスリッパに履き替える。

階段を上がると4階にだけ扉があり、ここも学生証で開錠してフロアに入る。

白い廊下の左右に規則正しく木の扉が並ぶ。

各フロア40部屋だが、1年生の女子生徒は20名しかいないため、南向きの20部屋にネームプレートがはめられていた。


わたしの部屋は階段から一番遠い420号室、イマリは406号室だ。

イマリはこの後、両親と食事の予定だと言っていた。

夜8時の門限さえ守れば、寮や学園からの外出は自由となっている。


420号室を開錠して中に入る。扉が閉まるとカチャリと鍵がかかる、オートロック形式だった。

フローリングで6畳程の白を基調としたワンルームの部屋は、窓際に机と椅子、その横に木製のベッドがあり、家から送っておいたカーテンやカバー類がすでに整えられていた。

クローゼットを開けると、予備の制服と祖父チョイスの清楚なワンピースが吊るされている。

小さなキッチン、冷蔵庫、シャワー、トイレ、洗濯ボックスも設置されている。洗濯ボックスは汚れた衣類を入れると魔法で綺麗にしてくれる、便利なマジックアイテムだ。

女子専用フロアだからか、いたれり尽くせりの設備だった。


お昼ご飯を寮の食堂で食べてから、図書館へ向かう。

ダリア魔法学園の敷地内には、高等部校舎、中等部校舎、小学部校舎、学園本部、高等部寮、職員寮、食堂&売店、学園図書館と様々な施設が設置されていて、高校というよりは前世での大学キャンパスを思い出す広さだ。

図書館は円形の赤レンガ造りの平屋建てでやたらと広い。

王都中心部からそこそこ離れた学園では、いたるところで空間が贅沢に使われている。


「アリス!」

受付を通りかかると、中から声をかけられた。

ベリアル・イド・ランスだ。


「入学初日から図書館、真面目だな。」

「学生の本分は勉強ですから。ベリアルは図書委員でしたわね。」

「そう、本に囲まれてるの好きでね。」

「・・・」

「本読む柄じゃない、って顔に出てるよ。」


あらいけない、令嬢のほほ笑みをキープしなきゃ。

「そんなこと思っていませんわ。でも初日から委員会活動ですか? お昼は食べました?」

「ふーん。」

ベリアルが楽しそうな声を出した。

「俺のご飯、気にしてくれるんだ。」


え、なんでちょっと嬉しそうなの?


「クラスメイトだし、もっと気楽にしゃべらないか? ペアの子に先にご飯行ってもらったから、俺ももうすぐ交代なんだ。」

「そうですか、それでは。」

「本部近くの食堂はかなり美味いからさ、今度一緒に行こう。」

一礼して去りかけたわたしの背中にベリアルがそんな誘いをしたけど、聞こえなかったふりをした。


図書館に来た目的は、父と魔王の戦いについて知るためだ。

何故か子爵邸には魔法関係の本がなかった。

領地の本邸も王都の別邸も、父の肖像画も勲章のひとつも何も飾られていない。

魔王封印の英雄と謳われる父の生家には、何一つ、父の気配がなかった。

本邸で祖父にダリア入学を言い渡されたときも、ただ『婿を捕まえてこい。』とだけ。


魔法歴史書関連のコーナーは一番奥だった。

壁に作り付けられた書棚は天井まであり、わたしの背だと半分くらいまでしか届かない。


「結構上のほうかな‥。」

書棚の端に立て掛けてある梯子を持ってきて、天井付近の棚をチェックすると、『魔王封印の軌跡』『魔術師団長秘伝』『誰でもできる魔族討伐』などなど、それっぽい本が並んでいる。

どれを借りようかと選んでいると、ドンッと梯子が揺れた。


「痛っ!」

「わっ‥!」


ぐらりと梯子が斜めになり、落ちかけたわたしの下には床にうずくまる誰か。

(怪我させちゃう‥!)

とっさに右手で棚板をつかんで倒れかける梯子を左手で押さえる、書棚ロッククライミング状態。

棚に足をかけようと右足をばたつかせていると。


「いい眺め、でもないか。」

下から男の子の声がしたけれど、そちらを向く余裕が無い。

「俺が梯子を支えるから、まず左手を離せ。」


命令型なのは気になるけど、このまま梯子が倒れると困るから彼の言う通りにする。

「降りられるか?」

「このまま飛び降りても大丈夫?」

「飛び降りる?!」


驚いた声が梯子の方から聞こえた。

なんとか目だけ真下に向けると、誰もいないようなのでそのまま飛び降りる。


「普通、梯子を降りてくるもんだろう…。」

左手を額に当てた姿勢で、小柄な男の子が不機嫌そうにわたしを睨んで小声で文句を言う。


「届かない本があったら職員を呼べよ。女子がスカートで梯子を上がるなんてはしたない。」

「ちゃんとスパッツ履いてるけど?」

「そうだったけど‥いやそうじゃないだろ。」


彼は呆れたような表情を浮かべて、『ちょっと来い』とわたしの右手を掴むと書籍コーナーからぐいぐい引っ張り出した。


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