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1年生10月:対抗戦(4)

午後の決勝トーナメント開始まで1時間のお昼休みがある。

対抗戦参加者にはお弁当が配られるのでイマリと食べようと思ったら、2次予選で負けたイマリは会場から出ないといけなかった。

逆に決勝トーナメント出場者は、不正防止のために会場から出ることができない。

仕方ないのでひとりでさっと食べて、ストレッチなんかしながら時間を過ごしていると。


「お久しぶりね、マーカーさん。」

見慣れない制服の女子生徒から声をかけられた。


「キャサリン・アーチャー‥?」


「たったひと月で忘れるなんて、相変わらず非常識な人ね。」

キャサリンの胸元、赤いリボンはローズ魔法学園の証。

「アーチャーさんもお変わりありませんわね‥と申し上げたいところですが、少しお痩せになりました?」


控えめに言ったけど、少しどころではない。

目が落ちくぼんで、頬がこけて、明るく自信に溢れていたキャサリンとずいぶん雰囲気が違う。


「ええ、いろいろ思い悩むこともありまして。でもね、」

口もとが笑みを作るのだけど、瞳はわたしを捕らえたまま、なんの感情も浮かんでいない。

「あなたもわたくしも、お互い全力を尽くしましょうね。」


そうか、ここに残っているということは。


「ええ、全力で頑張りましょう。」

「よろしくお願いしますわ。」

キャサリンがわたしの手を握ってくると、ピリッとした刺激があった。

なにか嫌な魔力がキャサリンから立ち上がっている。

真っ黒な墨を流したような、浸食されるような魔力。


両腕の真っ黒な革のバングルからその気配がする。


「それでは、あなたと当たることを心から願っていますわ。」

キャサリンが手を離して去っていっても、握られた手の嫌な感触はなかなか消えなかった。


ドン、ドン、ドン、と3回大太鼓が鳴らされて、午後の決勝トーナメント表が張り出された。

決勝32名は4つのトーナメントに別れるので、競技ステージも30メートル四方4つに組み替えられ、倒す魔物が大型化する。

わたしはトーナメントD、キャサリンはAなので決勝戦でないと当たらないことにほっとしてしまった。


午後1時、試合開始の前に決勝進出者の紹介が行われた。

「最後はゼッケン128番、ダリア1年A組、アリス・エアル・マーカー!」

司会者に呼ばれると立ち上がって周りに手を振らないといけない。

「予選スコア200ポイント、今年大注目のルーキーはなんとなんと、聖戦の英雄、ジャスパー・イオス・マーカー魔法師団長のご息女だー!」


「なんで『聖女』が出てるの!」

決勝戦から観戦に来た学園長は、来賓席で護衛に立つファンに声を荒げた。

「クラレールくんには、『絶対出すな』って指示出したよね!」

「しかし彼は『生徒の自主性に任せたい』と‥。」

「クラレールくん呼んできて!」

「彼は『魔力感知』で大会の監視の要。持ち場を離れられると困ります。」

「ちょっとぐらいいいよ!」

「よくないです。それより決勝戦開始の宣言を。」


「‥『ペンタグラム杯』高等部個人戦の部、決勝戦開始!」

学園長が立ち上がって開始宣言をし、4会場同時に1回戦が始まった。


決勝トーナメントは5回勝てば優勝する。

大型魔物を2人で攻撃して、10分間で多いダメージを与えた方が勝ち上がりとなる。

ただし、途中に魔道具で回復することができないし、勝ち上がるほど試合の間隔が短くなるから魔力消費配分も気を配らないといけない。


1回戦の召喚魔物はオークだった。

人間よりふたまわりほど大きな体を太い毛が覆っていて、攻撃魔法が効きにくいけれど動きはそんなに速くないから、わたしはやり易い相手だ。

聖域サンクチュアリ』を発動していればダメージも受けないので、大きな相手でも怖さを感じなかった。。

対戦相手の魔法でオークの足が止まったところを、魔力を込めた『聖拳突』で一撃粉砕する!


「おおっと、D会場はわずか2分で決着したー!」


司会者の煽りに観客席が一斉にわいた。

2回戦のリザードマン、3回戦のオーガもさっくり倒して、わたしは難なくD会場を制してベスト4入りが決まった。

これくらいの魔物だとHPが2,000くらいなので、MP500くらいを注ぎ込めば一撃でいける。

魔法によるダメージは『消費MP×4』ぐらいが相場だ。

わたしは魔力回復も早いので、3戦してもMPは1,000くらいしか減っていない。

クララ級が出てこない限り余裕だ。


全会場の試合が終わり、A会場トーナメントは、キャサリンが勝ち上がっていた。


準決勝からは1試合ずつ、全観客の注目を浴びて行われる。

キャサリンの試合が先だったので、わたしはようやくキャサリンの試合を見ることができた。


準決勝の魔物は、キングゴブリンだった。

普通の小鬼ゴブリンは10才くらいの子供みたいな大きさだけど、小鬼王キングゴブリンはオーガよりも大きくて、筋肉が異常にぶ厚い。

ゆうに2メートルを越える高さから太い棍棒で殴りかかってくる。


これ、直撃したら下手すると死んじゃうんじゃないの?!


キャサリンの対戦相手は土属性魔法を使う男子生徒だった。

開始の合図と同時に防御魔法を展開して身を守りつつ、突進してきたキングゴブリンの勢いを利用して、鋼鉄の槍を出現させて太ももへ突き刺した。

痛みに鈍感なのか、そのままキングゴブリンは頭上から棍棒を撃ち下ろしたので、彼は槍を離して後退する。


「『絶対零度ゼロ・ゼロ』」


キャサリンの魔法が、一撃でキングゴブリンを丸ごと氷付けにした!


「なんだこの魔法はー!」

キングゴブリンを覆う氷が、次第に黒に染まっていく。

なにかに浸食されていく不気味さが会場に漂う。


そして競技ステージに、真っ黒なキングゴブリンの氷像が出来上がった。


「もう魔物は死んでますわ。」


キャサリンの台詞に審判の先生が氷像を確認して、キャサリンの勝ちを宣言した。

少し遅れて上がる歓声。

「ええぞ、キャシー!!! 最強やー!!!」

鳴り物入りで盛り上がる一角は、アーチャー商会会長の一団だ。

キャサリンは手を振りながらステージを降り、スタンバイしているわたしとすれ違い様に。


「あなたも、勝ち上がってくださいね。」


魔法を使ったわけじゃないだろうけど。

凍りつきそうな冷たい声だった。


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