1年生10月:対抗戦(3)
対抗戦2日目、朝6時30分。
わたしは制服の胸元に黄色のリボンを結んでから、いつもの赤いリボンをポニーテールに結んだ。
子爵家に引き取られてから伸ばし続けた髪は、ポニーテールが余裕で結えるくらいになっている。
こんなに伸ばしたのは初めてかも。
舞踏会でひいた口紅を、ちょっとだけ薬指で唇に馴染ませる。
鏡に笑顔を作ってみるけど少し固くて、自分で緊張しているのがわかる。
さあ、覚悟を決めろ。
イマリと待ち合わせて、アリーナに着いたのは受付開始のちょうど7時だった。
学園別の受付口でエントリーナンバーのゼッケンを渡されて、空港の搭乗口の金属探知機みたいなものをくぐらされる。自動でスキャンされて、モニターに映し出された魔装具を係員が読み上げる。
「128番アリス・エアル・マーカー、節約の腕輪、破邪の指輪(壊)、オリジナル2点、オーバースペック1点。」
‥なにか変な単語があったよね?
ほら、周りがなにかざわざわしてるし。
わたしの持っている他の魔装具は、オリジナルの『聖女の護印』、『聖女の刻印』、そして海皇さまからもらった『召喚の輪』。
「いくよ、アリス。」
イマリが戸惑っていたわたしの背を押して会場に入る。
「あの、オーバースペックってなんのこと?」
「スキャナーの想定レベルを超えてる魔装具のこと。」
「想定レベルって‥。」
「スキャナーが読めないのは『国宝級』とか『神器級』とか。アリス、なに持ってるの?」
きっと海皇さまからもらった指輪、『召喚の輪』だろう。
クララに連れていかれたとき、海皇さまはなにも教えてくれなかったけど、クララが寂しがっているからもっと気軽に喚んでほしいと指輪を渡された。
キスすると喚べるらしい精緻な彫り模様の銀の指輪は、とりあえず左手の人差し指にはめている。
「この指輪、そんな凄いんだ‥。」
「よくわからないけど、周りの人に気を付けるんだよ。アリス、大会初めてでしょ。」
イマリとはエントリー番号が離れていて、予選は別々の会場だった。
「「お互い頑張ろうね!」」
1次予選は生徒10人対ゴブリン10体の3分間バトル・ロワイアル。上位3人が2次予選に上がるので、最低3体、できれば5体倒したい。
15メートル四方の競技ステージは四隅に審判の先生たちが立って結界を張っていて、中で魔法を思いきり使っていいけど、同じ会場の生徒にわざと当てると失格になる。
9時から予選が始まり、わたしは先に繰り広げられる対ゴブリン戦を見ながら戦略を考えていた。
「次、121番から130番。」
わたしの組の番がきて、10人が競技ステージに上がる。
各学園2人×5校の10人なので、ダリアはわたしと3年生(多分)だけで、全然知らない人だった。
競技ステージ中央に半径3メートルくらいの魔方陣が描かれ、その中に等間隔で黒い水晶玉『擬似核』が置かれている。
わたしたちはそれを囲んで、お互いに牽制しながら開始の合図を待つ。
ぼうっと魔方陣が光り、黒水晶がそれぞれゴブリンに変化した。
緑色の皮膚に唇からはみ出た牙、眼をギョロリとさせて、手には斧が握られているというなかなかの再現度だ。
「始め!」
審判の合図で、ゴブリンたちがわっとわたしたち生徒に襲いかかってきた。
「『炎矢』!」
「『氷結槍』!」
次々にレベル3クラスの呪文が響く。
先手必勝!
わたしはゴブリンの集団へ結界『聖域』をまとった状態で突っ込み、目の前の数体へ右拳のナックル『聖女の刻印』で連打する。
撃たれたゴブリンは途端に霧散したので、空いた穴からステージの中央、つまりゴブリンたちの真ん中に陣取ると、『聖域』の魔力濃度を極限まで引き上げた。
わたしを覆う結界は金色に光り輝き、まるでわたしが光の檻に閉じ込められたよう。
「なんの光?!」
強烈な光に他の生徒はうろたえ、発動しかけた魔法が止まったその隙に。
「『破邪』!!」
わたしは結界を一気に競技ステージサイズまで膨張させた。
この結界は、わたしが認識した人はそのまま結界に取り込めるし、魔物は結界に弾かれて中に入ることはできない。
さらに結界の出力が高いと、魔力濃度の差でゴブリンくらいなら押し潰してしまう。
魔力コントロールが上達したことで使えるようになった応用技だ。
ハンス先生の部屋の鏡で自分の金色の魔力を見てから、魔力の流れを感じて魔法のイメージを組み上げられるようになった。
金色の光の壁は一瞬で残りのゴブリンたちを消し飛ばして。
「それまで!」
開始10秒、わたしの総取りで決着した。
2次予選も同様にあっさりと全滅させて、わたしは200ポイントで午前中の予選会をトップ通過したのだった。




