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1年生10月:対抗戦(2)

イマリにオペラグラスを渡されて、おすすめの彼をアップで見せられる。

「ね、すごくカッコいいでしょ! 」

無邪気な笑顔はやんちゃな子犬のよう。同じアイリス魔法学園の仲間とハイタッチを交わしている。

‥カッコいいというより、可愛いかな。


「えっと、彼氏、なの?」

「来年ダリアに合格したらね、また付き合うことになってるの。」

「また?」

「わたしがダリアに受かったから、男の面子とかで一応別れたみたいな感じ。」


男の面子‥そんなことが前にあったかも。

いい雰囲気だった空手部の先輩が、わたしがインターハイ優勝したあとは距離をとられた。

先輩がもっと強かったら違ってたのかな?


「「そんなの気にしないのにね。」」


わたしたちの台詞がかぶって、一緒に笑った。


イマリの元彼くんは、二次予選も突破して決勝トーナメントに進んだ。

決勝トーナメント一回戦は、ジャイアントフロッグ1体対生徒2名。

対戦相手は火系魔法の使い手で優位に攻撃を展開したけど、風系の元彼くんは対戦相手の魔法を上手く利用してジャイアントフロッグを倒し、元彼くんの判定勝ちになった。


だけど二回戦のゴーレム戦で、ダリア魔法学園中等部の生徒に完敗してしまった。

水系魔法の使い手、ディック・メイビス・ブレイカー。

防御力の高いゴーレムを、水圧であっという間に場外へ吹き飛ばしてしまった。

瞬殺した後はにこりともせず、仏頂面でさっさと会場を降りてしまう。


「あー、ベスト8惜しかったー。」

イマリは残念そうだけど、今の試合はディックとの実力差で仕方ないかな。

元彼くんは強いけど、ディックの実力が他の生徒より頭ひとつもふたつも上だった。

無駄な動きがなくて流れるような軽やかな立ち回りで、魔法の起動が異様に速い。

ベスト8からもディックはサクサク勝ち上がって、あっさりと優勝してしまった。


「ブレイカーさまー!」

表彰式の間も、女子生徒たちの応援が凄かった。

アイドルみたいな声援にディックは全然反応しないけど、『超クール!』とまた盛り上がっているからいつものことなんだろう。

優勝したのにどこか不機嫌そうで、思春期っぽい感じがしてちょっと可愛いなと思ってしまった。


「明日はわたしたちも頑張ろうね!」

閉会の後でイマリは元彼と会うそうなので、わたしはイマリに手を振って先に中等部アリーナを出た。

高等部への帰り道の途中、いつものようにノワールのいる池に寄る。


「ノワール~?」

見当たらなかったので呼ぶと、ノワールは低木の茂みからガサガサと出てきてくれた。

抱っこして頭を撫でると、手のひらに鼻をすりよせてくれる。

んー、癒されるー。


もふもふを堪能したくて木のベンチに座ると、ノワールはそのままわたしの膝の上でまったりしてくれた。

背中を撫でながら、今日の試合を思い出す。


「ねえノワール、みんな凄かったよ。」


誰もが魔物を恐れることなく積極的に魔法を撃ち出して、生徒の同士討ちもほとんどなくて、みんな魔法を高度に使いこなしていた。

特にディックは、魔物をみんな一撃で倒していた。

形の定まらない水を一点に集中させて、魔物の弱点をピンポイントに貫く無駄のない戦闘スタイル。


夏休みからしばらく会っていなかったけど、また背が伸びて体が一回り大きくなったような気がした。

強力な魔法だけでなく魔物を翻弄した美しい体さばきも、きっと、すごく鍛えてきたのだと思う。


「綺麗だったな。」


あんなに細く強く魔法を出力するには、指先まで意識を集中させていないと難しい。

ハンス先生の言うとおり、大技のほうがずっと楽なのだ。


気持ちを固める間、ノワールはおとなしく撫でられていてくれた。

「いつもありがとね、ノワール。」

わたしはノワールを膝からおろして立ち上がった。


秋の日が落ちかけた赤い空と陰を落とす木々の下で、わたしはゆっくりと『形』の構えをとる。

胸いっぱいに息を吸い込んで、全身に気を張り巡らせる。


「はぁっ!」


繰り返し繰り返し稽古した演武は、今でも体の髄に染み込んでいる。

大会前の不安な時期はいつも形を稽古した。

何も考えず、一撃一撃を静寂を切り裂くように舞え。

わたしの一番美しい姿を思い出せ。


ねえ、アリス。

今までもこの右拳で全力で挑んできたから。


「せやっ!」


最後の突きは、何を打ち砕くものだろう。


「わたしは勝つ。」

右拳を固く握りしめて、わたしは自分に誓った。

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