1年生10月:面談(1)
わたしの面談は午後3時頃だった。
午前中のうちに面談が終わった生徒は昼で帰ってよかったので、逆に午後に面談の生徒は午前中休みにしてほしかった。
先生たちは校舎の1階に控室として個室を持っている。
前の席のネオンが教室に戻ってきたから、わたしはハンス先生の部屋へ向かった。
トントンとノックをすると、ハンス先生が扉を開けてくれる。
「失礼します。」
中へ入ると、メントール系の爽やかな香りがした。
縦長の部屋は奥に机があって、その前に木の丸椅子が置かれている。
「ここにどうぞ。」
指し示された丸椅子に座ると、ハンス先生は机越しの事務椅子に座って何枚か書類を机に並べた。
「これからマーカーくんの面談を始めるけど、『防音』の魔法をかけてるから秘密は絶対守るからね。」
「はい。」
「じゃあまずは筆記の採点から。」
渡されたわたしの回答書は、赤ペンであちこち線が引かれて、『+』『ー』や補足が書き込まれていた。
「そつなくまとめているけど、ちょっと説明が足りないねー。ぎりぎりの『良』だから、後期はもっと丁寧にレポート書くようにしてねー。」
「はい、気をつけます。」
「そういう素直なところいいよねー。」
ハンス先生はうんうんと頷いてノートに何か書き込む。
「実技1はとくに言うことないなー。ちゃんと僕の渡した課題、やっててくれたんだね。」
ハンス先生に言われたとおり魔力パズルのボードは毎日挑戦したけど。
「でも、クリアできませんでした‥。」
「そりゃそうでしょ、子供用だからねー。マーカーくんの魔力量じゃムリ。」
えっ?
「じゃあなんでさせたんですか?」
「だってマーカーくん、魔力駄々漏れだし。出力絞る練習だよ。」
「駄々漏れ、ですか?」
「駄々漏れだねー。」
ハンス先生は立ち上がると、壁にかかっていた布をめくる。
そこには大きな鏡がはめられていた。
その前で椅子に座っているはずのわたしの姿は、金色の光に覆われてまるで映っていない。
「これね、魔力を映す鏡。」
ハンス先生がわたしの前に立つと、鏡の中に先生の姿はちゃんと映っているけど、輪郭から赤い光が揺らめいていた。
「この赤い光が僕の魔力だよー。開放するとこんな感じ。」
言ったとたんに鏡の中が赤い光に溢れて、他が何も見えなくなる。
「すごい‥。」
赤い光はすぐに引いて、またハンス先生の姿が映った。
「見とれてないで、マーカーくんも魔力を抑えてごらん。」
促されてチャレンジしてみるけど、そもそも魔力を放出してる自覚がない。
「‥よくわかりません。」
「迷路ボードと同じ要領なんだけどなー。」
ハンス先生はわたしの手をとって立たせると、わたしの右手を握手するように握りしめた。
「僕の手を迷路ボードと思って、魔力を細く通す感じでやってみて。」
「はい。」
いつものように目を閉じて、先生の手に集中する。
「‥ほんと、馬鹿みたいに素直だねぇ。」
「あの‥?」
「鏡を見てごらん。」
目を開けると、鏡の中に先生と、先生と握手しているわたしの姿が映っていた。
先生と同じように、金色のオーラを纏ってるみたいになっているけど。
自分が文字通り光輝いているなんて、なんだか恥ずかしい。
「できました‥。」
「うん、よくできたね!」
ハンス先生はそのままわたしの手を引いて。
「!」
ぎゅうっと、わたしは力強く抱きしめられていた。
「あの、あのっ!」
「マーカーくんすごいっ、ほんとすごいよー。」
ハンス先生はわたしの肩に顔をのせて、背中をパシパシたたきながらはしゃいでいる。
「あのっ!!」
わたしはかなりの力をこめて、ハンス先生の胸を押し返した。
「こういうの、セクハラですよ!」
「『せくはら』?」
しまった通じない!
「先生が女子生徒を抱きしめたりしたら駄目です!」
「なんで?」
「なんでもです!」
ふーんとハンス先生はすぐに体を離してくれたのだけど。
「マーカーくんって思ったより慣れていないんだねー。」
慣れるってなにに?!
「あの夜、ウォールくんといろいろしたんじゃないの?」
「ーーー!」
ふいにエリオスの名前を出されて、あの夜のことを言われて、わたしの顔は弁解のしようがないほど真っ赤になってしまった。
「ね、誰にも言わないから。」
ハンス先生はわたしの肩を押して元のように丸椅子に座らせる。
そして自分も椅子に戻ると、机に肘をついて普段の人懐こい笑顔を見せて。
「先生に、あの日何があったのか教えてくれるよね?」




