1年生10月:テスト結果
前期テストが終わって週末を寮でだらだら過ごした休み明け。
登校すると職員室前の掲示板に1年生全員の成績が張り出されていた。
‥全員掲示って、なにそれ‥。
普通は上位者だけじゃないの。
筆記、実技1、実技2、総合の4項目を『優』『良』『可』『不可』で評価される。
掲示板の前はものすごい人垣で、自分の成績を確認できずに教室に入ると、教室内の掲示板にA組全員の成績が貼られていた。
わたしの成績は、筆記『良』、実技1『特優』、実技2『特優』、総合『特優』。
‥『特優』ってなに。
クラス全員の総合成績を見ると、キャサリン以外はみんな『優』、ベリアルが『特優』だった。
キャサリンは実技1が『不可』のせいか、総合評価が『良』になっている。
「おはよ、アリス。」
イマリがいつもどおり声をかけてくれた。
「おはよう、お休みはゆっくりできた?」
「家に帰ってたけど、弟たちの世話で逆に疲れちゃったわ。」
イマリにはまだ小さな弟が3人いるそうで、週末はよく家に帰っている。
「お姉ちゃん、お姉ちゃんってうるさくて。」
そう言うイマリの表情は嬉しそうだ。
「わたしもお母さんに会いに行こうかな‥。」
「え、何?」
「ううん、弟くんたち可愛いんだろうね。」
「対抗戦見にくるっていってたから、アリスのこと紹介させてね。」
今月は王都魔法学園対抗戦が開催される。
王都にある魔法学園のうち、高等部がある5つの学園が毎年秋に合同で魔法対抗戦を行う、通称『ペンタグラム杯』。
学園代表チームによる団体リーグ戦と、誰でも出場できる個人トーナメント戦で、一般観戦もあってちょっとしたお祭りのようになるとか。
前期テストまでの成績で学園代表を選抜する、とハンス先生からテスト前に説明があった。
「イマリは個人戦に出るの?」
「うん、わりとみんなエントリーするよ。‥あ。」
始業前のベルが鳴る。
「またお昼にね。」
イマリが席に戻るとすぐにハンス先生が教室に入ってきた。
「はーい、みんなおはよー。」
ハンス先生は今朝も元気だ。
「テスト結果はどうだったかな~? 今日はみんなを個別面談するから、講義は午後まで自習になりま~す。じゃあ面談をキャサリン・アーチャーくんから‥と、今日は休みだったね。」
ハンス先生が出席簿をチェックする。
「じゃあ出席番号2番のヨセフ・イーゼフくんから、僕の部屋に来てくれる? 15分くらい目安だからねー。何か成績以外で相談してくれても大丈夫、秘密厳守するから。」
ハンス先生がヨセフと出ていくと、みんな本を出したりおしゃべりをしたり、ゆるく過ごし始めた。
「な、アリス。」
隣の席からベリアルが話しかけてくる。
「特優だなんて凄いな。治癒魔法のテストって、どんなことしたんだい?」
「特優はベリアルもでしょう‥というか、『特優』ってなんですの?」
ベリアルの成績は、筆記『優』、実技1『優』、実技2『特優』、総合『特優』となっていた。
「実技で試験官の設定レベルを超えると『特優』になるらしいよ。」
ひとつ特優がつくと総合も特優になるそうだ。
「こんな成績をオープンにするのは前期だけだよ。後期のモチベーションとか目標設定のためだからさ。」
この学園のクラスは成績順でA組がトップクラス。
2年生進級時のクラス編成でクラス落ちすると‥。
「とりあえずテスト結果が悪くなくて安心しました。」
これならA組として恥ずかしくない、よね?
「悪いって、こんな成績出しておいて何の心配?」
ベリアルが呆れたように笑う。
「魔法の実技テストは初めて受けましたので‥。」
みんなは中等部で経験しているんだろうけど、わたしはダリアに入るまで魔法を使えなかった。
「それに、知らない人に治癒魔法をかけるのは怖かったです。」
「知らない人って、外部の人ってこと?」
「外部というか、神殿の方が連れてこられたみたいで。」
あの男の子の足、もっとちゃんと治してあげたかったな。
「わたしはまだたくさんのことを学ばないといけませんね。」