1年生9月:実技テスト(3)
なんだかんだうやむやな感じで実技初日は解散になり、わたしはひとりそっと寮に戻った。
ハンス先生たちがいなくなったあとの教室の居心地の悪いこと。
MP3,000であんなに引かれるなら、実は9,999あるなんて絶対言えない!
「『チート』ってこういうことね‥。」
わたしの魔法は治癒専門でベリアルたちのように派手な攻撃魔法が出せないから、これまで目立たずにやってこれていた。
知識不足のズレも勉強して少しずつ解消してきてたのに。
「イマリ、どう思ったかな。」
自分の異常さを全然わかってなかった。
「明日、また話してくれるかな‥。」
明日の準備をする気持ちになれず、早めにふて寝してしまった。
実技2日目は属性別にテストを受けるので、各自魔装具を装備して指定された教室に集合することになっている。
『聖属性』で申請していたわたしは学園の『聖堂』が指定されていた。
なんとなくイマリたちと会うのが怖くて、寮を時間ギリギリに出て、A組に顔を出さずに聖堂へ向かってしまった。
「失礼します。」
聖堂は学園本部棟の隣に建てられている小さな教会で、わたしはこれまで1度も入ったことがない。
神父様がいつでも悩みを聞いてくれるらしいけど、村の教会や神殿が苦手だったからか足が向かなかった。
聖堂の中はよく結婚式があるチャペルのようで、一番奥の壁にはステンドグラスで十字架が描かれていた。
祭壇横に置かれた長机の席に何人か座っているので、近づいて挨拶をする。
「1年A組のアリス・エアル・マーカーです。」
「ああマーカーくん、今日は楽しみにしているよ!」
楽しみ?
陽気な声で大きく手を広げて立ち上がったのは、白いスーツをかっちり着込んだ学園長だった。
「あれからちゃんと練習してたよね? 君の成績が気になっちゃって、今日はクラレールくんに無理言っちゃったよ。」
「学園長、皆さまの前です。」
「ファンくんはつれないね。いいよいいよ、おとなしくしとくよ。」
後ろに影のように立っていたファンさんが学園長を座らせた。
‥これ、どうなっているのかな?
ここにはわたししか呼ばれていないみたい。
イマリの風属性は1年C組が指定で、A組から4人が参加すると言っていた。
それに学園長の横に並んで座っている男性は、3人とも白のローブに銀の精緻なロザリオを胸に揺らしていて、どう見てもダリア魔法学園の先生じゃない。
「アリス・エアル・マーカー、こちらへ。」
「あ、はいっ。」
ファンさんに呼ばれて祭壇の前に置かれていた木の椅子に座ると、目の前に学園長たちが座っていて、面接のような雰囲気だった。
「それでは、聖属性魔法の実技試験を始めます。試験官は学園長が務めますので、視察官のみなさまは試験中はお静かに願います。」
ファンさんが淡々と手元の台詞を読み上げる。
「まずは『鑑定』から。」
鑑定?
「『鑑定』。」
学園長が白い杖をひと振りすると、わたしの座っている椅子の周りに魔法陣が浮かび上がった。
(熱っ。)
思わず両手で顔を覆う。
一瞬、ぶわっと熱風に煽られたけれど、魔法陣はすぐに消えてしまった。
「なんだこれは?!」
「卿、お静かに。」
一番豪華なローブの男性が立ち上がったのをファンさんが制する。
今日はまるで学園長の秘書みたいだけど、ファンさんの立場ってどうなってるんだろう。
「次は『治癒魔法』の実技を。」
だから説明無しに淡々と進めないでほしい。
ガタッと聖堂の扉が開いた音がしたので振り返ろうとしたら、耳元でファンさんの声がした。
「『復活』は何があっても使うな。」
(えっ?)
ファンさんは学園長の後ろに立ったまま。
わたしの視線に、ファンさんは自分の唇に人差し指をあてて、『静かに』の合図を送る。
「いいな、絶対に『復活』は使うな。」
ファンさんの唇は動いていないのに声が直接耳の奥に届く。
扉から聞こえてくるのはキィ、キィと何かを押しながら進む小さな足音。
車椅子の少年とその母親が、わたしと学園長たちの間で深々と頭を下げた。




