1年生9月:実技テスト(1)
前期テスト三日目、実技『基礎編』。
ハンス先生が言うには魔法の基礎は『制御力』。
『基礎っていうか、制御力が全てだよねー。』
夏休みの学園長研修で、午後の魔法を担当したのはハンス先生だった。
『ただ呪文を唱えるんじゃなくて、最適なプロセスを魔力で組み上げることができたらすごく威力が増すからねー。』
魔力の糸で編み物をするような感じらしい。
魔力制御力アップのため、ハンス先生から迷路パズルゲームを課題に出された。
両手で持つノートくらいの大きさのボードで、右側の入り口からゴールに向かって魔力を通して正しいルートを光らせる子供のオモチャだそうだけど。
初めて触ったときは魔力が多すぎて全面が光ってしまった。
集中して魔力を絞り、頭の中でイメージして迷路を進ませるのだけど、縫い針の穴に糸を通すような作業で、結局クリアできなかった。
で今日の実技試験『基礎編』は、大型版迷路ゲームのタイムアタック。
黒板ぐらいの大きさのボードが教室の前に設置され、測定のためにさらに年配の先生が二人、教室に来ている。
生徒の方に表示を向けて置かれたストップウォッチが、何だか空手の大会を思い出させた。
出席番号一番はキャサリン・アーチャー。
銀色の豊かな髪を余裕たっぷりに縦ロールに巻いて、堂々とした足取りで前に立つ。
肩にかかる髪を優雅に手ではらうと、髪色と合わせたシルバーネイルが煌めいた。
右下が入口で、左上のゴールまでの平均は1分30秒。
A組なら1分15秒が目安と授業で言われた。
キャサリンは30秒間迷路を見たあと、入口に手をついて笑顔でスタートの合図を待っている。
「スタート!」
サポートの先生が合図をして、ストップウォッチのボタンを押した。
キャサリンが魔力を込めると、『入口』の円が金色に輝き、そこから金色の帯が延びてゆく。
キャサリンはボードをほとんど見ずにルートどおりに魔力をコントロールしていく。
ストップウォッチのカウンターが1分を刻む前に、キャサリンはゴールしていた。
「さすがキャサリン!」
リリカが小さく拍手をする。
満足そうな笑みを浮かべたキャサリンは、次のハンス先生の言葉に凍りついた。
「キャサリン・アーチャー、不正行為のため失格。」
「不正行為?!」
クラス中が顔を見合わせた。
「わたし、何もしていません!!」
キャサリンはハンス先生の前で両手を広げて見せた。
「リングもブレスレットも、ちゃんと外しています!!」
今日は魔法の実技試験だから、昨日までのような魔法封じの結界は張られていない。
魔法をサポートする魔道具や魔装具の使用は厳禁で、マジックアイテム無しで試験を受けるように言われた。
キャサリンも普段着けているマジックアイテム系のアクセサリーは全部外しているはず。
「ほんと、君は僕を馬鹿にしている。」
ハンス先生はキャサリンの右手をつかんで、くるりとひっくり返して手の甲を表にする。
「このネイルが魔力を増強してるね。」
指先は、キラキラとシルバーのラメに彩られている。
「そのキラキラしたやつ。」
とっさにキャサリンは指先を隠すように手の平を握りしめた。
‥黒、だったみたいだ。
「アーチャー君が問題を起こすのは、これでもう3回目だね。」




