1年生9月:噂(2)
「夏休みの生徒会合宿にアリスが押しかけて、生徒会長の部屋に泊まってー」
話しにくいと言うイマリにオレンジジュースを奢って、噂のあれこれを教えてもらう。
「それが先生に見つかって、アリスが退学になってー」
「退学?!」
退学とは穏やかじゃない噂だ。
「それに怒った子爵がアリスを勘当して、家を追い出されたアリスは行く宛もなく、裏通りの娼館で男をとって細々と暮らしているー」
いやいや、最後のほうはもっと酷くなってる。
「その噂、どれだけ広まってるの?」
「1週間くらい前に、1年生棟の掲示板に張り出しがあったんだよね。けっこうみんな寮に戻ってきてて、1年生はみんな知ってるんじゃないかなぁ。」
張り出しってなんだろう‥気持ち悪い。
「でね、アリスがずっと寮にいなかったじゃない? 昨日も戻ってこないから、退学に信憑性出てきちゃって。」
「あー、これからやっと寮に戻れるんだよね‥。」
研修棟での翌朝、ハンス先生とファンさんに朝早くから学園長の部屋に連れていかれて、わたしとエリオスは学園長からたっぷり一時間怒られた。
前日の夕方にわたしが寮にも子爵家にも居ないことが発覚して、ハンス先生とファンさんに学園長から捜索指示が出された。
寮からの足取りを追ってアーチャー商会でクラーケン退治に向かったらしいとわかったけど、島に渡る船が終わっていて、翌朝6時の始発で渡航したらわたしの魔力反応がエリオスの部屋にあって、あの朝の騒動になった。
『なんだろう、どこから君をしつけたらいいのかな。』
大きなスクリーンに映し出された白いスーツの学園長は、豪華な椅子に足を組んで、イラついたようにひじ掛けを指で弾いていた。
学園と研修棟の学園長室を映像魔法で繋いで、リアルタイムで話が出来るようになっていた。
わたしとエリオスはスクリーンの前の床に並んで正座だ。
『ウォールくんらしくないよね。自分の部屋に泊める他にやり方があったんじゃない?』
『生徒会メンバーに女子はいませんし、彼女の名誉を考えて誰にも話さない方がよいと判断しました。』
『でも君と泊まった事実はどうするの?』
『誓って何もやましいことはありません。』
学園長相手にも正々堂々と、表現を変えずに言い切る。
『自分の言葉では信用に値しませんか?』
『‥わかった。一緒に泊まったことは不問にする。』
しばらくのにらみ合いの後、学園長が納得していない表情で言い渡した。
『ウォールくんは研修を続けていいよ。』
『はい、ありがとうございます。』
『マーカーくんは学園の僕のところに連れてきてくれる?』
そしてそのまま、ハンス先生たちに学園長のところに連行されて、残りの夏休みを学園長の家で過ごすことになった。
「ええとね、ちょっといろいろあって補習合宿みたいなのに参加してたのよね‥。」
「ええー、なにそれ?」
「学園の中にはずっといたんだけど‥。」
学園本部の隣に学園長の屋敷があって、そこで午前中は貴族社会のマナー、午後は魔法の特訓をさせられた。
『君をこの学園に入れたのは僕だ。その理由は君の膨大な魔力にある。』
きちんと話していなかったのは悪かった、と学園長はまず謝ってくれた。
『正直、君の力のことは僕たちにもよくわからない。』
学園長や先生たちはステータスを看る魔法が使えるが、相手の魔力量が自分より高いと看破することができないそうで。
わたしの魔力が異常に多いことがわかるだけで、レベルや特性を看ることができず、適切な指導ができずに申し訳ない、とも言われた。
『アリーナや臨海学校の事件は、君の魔力に魔物が引かれて現れたという仮説もある。』
‥そのとおりなことが心苦しい。
『過ぎる力はいろいろなものを狂わせる。君を利用しようとする者も現れるだろう。』
前にハンス先生にも同じようなことを言われた。
『復活』の魔法は秘密にするように、悪い人に拐われちゃうよと。
『きちんと自分で進める力を身につけてほしい。それがこの学園の持つ唯一の存在意義なのだから。』
「わたし、もっとしっかり勉強しようと思ってるんだ。」
「そっかー、今月は前期テストもあるし、頑張ろうね!」
9月のイベント『前期テスト』、ステータスアップを狙って全力で取り組んでやろうじゃない。
うん、変な噂なんかに負けてられるか!




