1年生9月:噂(1)
夏休みが終わり、9月1日。
今日からダリア魔法学園の授業が再開される。
わたしがいつもどおりの時間に校舎に登校すると、何だか周りの視線を感じた。
「おはようございます。」
A組の教室に挨拶をしながら入ると、クラスメイトたちのざわつきが一瞬消えた。
何か言いたそうな視線をわたしに向けながらも、誰も声を上げずにまた元の会話に戻る。
なんだろう、ちょっと居心地が悪い。
「アリス、おはよう!」
自分の席に着くと、隣の席のベリアルは普段通りの明るい声で挨拶をしてくれた。
「おはようございます、お久しぶりですね。」
「ああ、夏休みは楽しく過ごせた?」
「ゆっくりできましたわ。ベリアルはずいぶん焼けましたね?」
「先週まで山の方に行ってて、渓流釣りしたら一日でこんな焼けちゃったよ。」
ベリアルがシャツの袖をまくると、くっきりと日焼けの線ができていた。
「アリスは海とか行かなかった?」
「ええ、一度…。」
そこでクラスメイトたちが静かになっていることに気づく。
「アリス?」
不気味なものを感じて固まってしまったところに、ハンス先生が勢いよく教室に入ってきた。
「はいはい、みんなおはよー。夏休み明けだけど全員元気かなー?」
出席を取り始め、そのままホームルームが始まった。
今日はホームルームと身体測定で午前中だけ。
男女別に身体測定を受けるため、わたしたちA組女子5人は指定された教室へ向かう。
キャサリンとリリカがわたしに話しかけてこないのはいつものことで、イマリと、彼女と同じ班のスーザンと3人で移動する。
廊下を歩いていると、他のクラスの人たちに見られている気がした。
…ほんと、何だろう。
身体測定は身長体重だけでなく、魔力量、魔力回路のバランスなども測られた。
特殊な紐に魔力を伝導させることで魔力量やバランスよくコントロールできているか測定するそうだけど、わたしが魔力を伝導させるとすぐに紐が焼き切れてしまって、測定不能になってしまった。
「もうちょっとでMPが1,000超えそうなんだ!」
イマリが嬉しそうに、でもちょっと悔しそうに言う。
「わたしも2年生に上がるまでには1,000欲しいです。」
同意したスーザンは物静かな子で、イマリとは班活動を通してだんだん打ち解けてきたみたいだけど、わたしとはまだあまり話してくれない。
前にエリオスから聞いた話だとレベル×50がMPの相場ということだったから、1年生が終わるまでにレベル20になるのが目安なのかな。
測定が終わった人は随時帰っていいとのことだったので、ハンス先生に測定用紙を提出して帰ろうとすると、イマリに食堂に誘われた。
今日はどの学年も午前中だけで、お昼の食堂はいつもより空いていた。
二人とも同じ日替わりパスタランチを買って、向かい合わせに座って食べる。
食べ終わってから、イマリが言いにくそうに話してくれた。
「あのね、アリスが生徒会長のとこに押し掛けて泊まり込んだって噂が流れてるの。」