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1年生8月:翌朝

目覚めると、朝の6時前だった。

ベッドにエリオスの姿はなく、わたし1人だ。

出窓のカーテンを開けると、なかなか晴れた青空と海が広がっている。

‥というか、部屋にエリオスがいない。


「夢だったらなぁ。」


ああもう、昨夜のことは忘れてしまいたい!


初めてのキスは生徒会長と彼のホテルのベッドで。


「いやいやいやいやいや。」

前世を足してもファーストキスなんだけど。


エリオスの雰囲気に流された‥よね。

こんなこと誰にも言えないし、軽蔑されそうで怖い。

そう思うってことは、これはきっと良くない状況なんだろう。


ガチャっと鍵が開いて、エリオスが部屋に戻ってきた。

「ああ、おはようございます。」

入ってきたエリオスは首もとのタオルで汗を拭いながら乱れた髪もまたセクシーで、朝からキラキラオーラがほとばしっている。

「‥おはよう、ございます。」

わたしは恥ずかしくて、顔も声もうつむいてしまう。


‥ほんとカッコいいんだよね‥。


「このバッグ、貴女のですか?」

差し出された白いショルダーバッグは、松林に置き去りにしてしまったわたしのもの。

「ありがとうございます、助かります!」

着替えもお金も、全部この中にあるはず。

これでここから出られる!


「探してきてくれたんですか?」

「朝のランニングのついでです。荷物のひとつもないのが気になったので。昨日のうちに対応できなくてすみませんでした。」

「いえそんな、先輩が謝ることじゃ。」

「ちょっとシャワーを浴びるので、よかったらその間に着替えてもらえますか?」

そう言ってさっとシャワールームに入ってしまった。


バッグを開けると、昨日のままで何も盗られた感じはない。

落とし物で拾われなくてよかった。

お金は銀貨2枚と銅貨が少し。


夏休みはあと10日くらいある。

クラーケンには勝ったけど、海皇のことが気になるから話を聞きにいってみようかな。

‥海皇って、ゲームに出てきてなかったよね?

キスイベントは12月だったし、知っている情報といろいろずれが出てきている。


ステータスには追加された項目が2つ。


『使徒:クララ(クラーケン)』

『騎士:エリオス・J・ウォール』


『騎士』は攻略キャラの好感度が一定を越すと認定される。

『騎士』になっていないと、最後の魔王との戦いでパーティーに選ぶことができない。

『使徒』は知らない、こんなシステムはなかったはず。


この世界は『ダリア魔法学園物語』、わたしはヒロインの『聖女』で、魔王を倒して世界を救わなければならない。


バッドエンドのスチルは、真っ赤に染まった王都だった。


「まだ着替えてなかったんですか?」

エリオスの声で、しばらくソファーで考え込んでしまっていたことに気づく。

「すみません。」

顔を上げると、上半身裸のエリオスがミネラルウォーターを飲んでいた。


‥は、半裸は心臓に悪いです‥!


「貴女もシャワーを使いますか?」

そうしたいです、と言う前に、ガチャンと扉の鍵が乱暴に開けられた。


「『防御ー』」

「させるか!」

エリオスが片手で防御魔法を展開しかけたけれど、投げられた短剣が刺さったところから崩れてしまう。

空いた穴から飛び込んでくる人影。

エリオスはわたしを庇うように前に立ち、短剣を構える彼ーファンと睨み合う。


なんでファンさん?!


「あー、そんな構えなくていいよー。」


彼の後ろから聞こえる呑気な声は、ハンス先生だった。

「夏休みだからって、不純異性交友は控えめにねー。」

「控えめって、禁止だろ普通。」

ファンさんの突っ込みをハンス先生は軽くいなす。

「青春は誰にも止められないものだからねー。」


「先生方に非難されるようなことは何もありません。」

しれっと真顔で言い切る先輩すごい。

「またまたー、ウォールくんの言葉でもさすがにこの状況じゃねー。」


部屋にはベッドがひとつだけで、浴衣姿のわたしと上半身裸でシャワーを浴びたばかりのエリオス。

何かしてたと言わんばかりの状況だ。


「まあ二人ともちゃんと服を着て、最上階の学園長の部屋で話があるから。」


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