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1年生8月:秘密

ふわふわしたところにいた。

見えない誰かの手がわたしの顔に触れる。

そっと、そうっと、温かい指が動く。


「んっ‥。」


唇が熱い。


「んんっ‥。」

それは離れて、次は少し角度を変えて、わたしの唇を押し開く。


ーキス、されてる?


舌を押し戻すと、チュッと音をたてて唇が離れた。


「やっと起きましたね。」

耳元で、脳に送り込まれる声に、体が跳ねた。

それに反応するように、体がベッドに押し付けられる。


おそるおそる目を開けると。


「きゃ‥。」

あげかけた悲鳴は、またキスで塞がれた。

力強い、深い口づけ。

清潔なシーツの香りと、熱い体から香る汗の匂い。


‥頭の中が溶けそうになる‥ !


「ま、待って‥。」

両手で彼の胸を押すと、少し重みが減った。

「叫ばないでくださいね?」

こくこくと頷くと、ようやく彼ーエリオスは体を離して、わたしが体を起こすのを支えてくれる。

そのままベッドから出ようとすると、背後から抱き締められた。


「イヤでしたか?」


彼に変化が伝わるくらい心臓が激しく音をたてて、首筋から上が真っ赤になっているのが自分でもわかる。

イヤとかイイとかそういうことじゃなくて。


「はず、か、し、い‥。」

口をパクパクさせる金魚のように、肺から絞り出してようやくそれだけの声を出す。

こんなシチュエーション、今まで想像したこともなくて。

もうどうしたらいいのかわからない!


ー『騎士の宣誓』受諾を確認したため、エリオス・J・ウォールを『聖女の騎士』と認定します。エリオス・J・ウォールには初認定者特典として『聖女の紅印』が付与されますー


ムードをぶち壊す、いつもの無機質な声が聞こえた。

「『聖女の紅印』?」

背中からの呟きに驚いて振り返ると、ランプの灯りでいつもより彫りの深さが際立ったエリオスの端正な顔に思わず見とれてしまう。


なんでそんなにカッコいいの‥!


エリオスは恥ずかしさに顔を背けたわたしから手を離してベッドを降りると、ミネラルウォーターの瓶とグラスを取ってソファーに座った。

「少し話をしませんか?」


時刻は夜の10時前で、思ったよりまだ早かった。

誰かが訪ねてくると面倒なので灯りは絞ったままにしてほしいと言われ、怪談話のような雰囲気で二人で向かい合っている。


しばらくお水を飲みながらお互い黙っていたけれど、エリオスがグラスをトン、と置いて話し始めた。

「貴女が『聖女』なんですね?」

「はい、称号は『聖女』です。」

「自分の称号にも『聖女の騎士』が追加されていました。」

追加?


「あの、元々の称号って聞いていいですか?」

「ステータス関連は聞かないのがマナーですが、この場ではいいでしょう。『守護者』が元々の称号です。」

エリオスの得意魔法は土属性で防御系が多い。

「ウォール家はほとんどがこの称号です。家系ですね。」

攻撃はあまり得意じゃなくて、と天使のように微笑む。


「せっかくなのでお返しに、貴女のMPを教えてもらえませんか?」

「‥普通、レベル20の人だとどれくらいですか?」

ああ、とエリオスは何か察したように頷いた。

「レベル×50が相場ですが、けっこう個人差がありますね。‥もちろん貴女のことは秘密にします。」

なら海岸でMP800あると言った時に、あんなに驚くのはおかしくない?

もしここでMPが1,000くらいと言っても大丈夫かも。


「ちなみに、貴女の頭痛は残存魔力が1割をきると発症する魔力欠乏症に見えました。」


‥なるほど、そうするとわたしのMPは8,000以上になる。

「9,999です。」

「表示上限か‥もっとあるかもしれませんね‥。」


上限超えとかありなの?!

うーんと腕を組んでうなり始めたわたしの頭を、エリオスがぽんっとした。

「ありがとうございました。騎士のことは学園で調べてみます。お疲れのところ、すみませんでした。」

とりあえず納得したのか、エリオスが話を切り上げた。立ち上がって空のグラスをカウンターに運ぶ。

「ベッドは貴女が使ってください。」


ダメだ、今夜のうちに聞かないと‥!

「どうして。」

わたしは両手を握りしめて、勇気を振り絞る

「‥どうして、わたしにキスしたんですか?」


エリオスはわたしのところへ戻ってくると、屈んで耳元で囁いた。

「‥気持ち良さそうでしたよ?」

ああ、拒めなかった自分が恥ずかしい!


「って、そういうことじゃなくて!」

いちいちエリオスの距離感に乱されてしまう、恋愛ベタな自分が嫌になる。

わたしは恥ずかしさに泣きそうな顔になってしまって。

エリオスは固まっているわたしを軽々と抱き上げると、ベッドに運んでおでこにキスをした。


「貴女と二人だけの『秘密』を、欲しいと思ってしまったんですよ。」


ああ、エリオスはなんて美しく残酷な笑みを浮かべるんだろう。


「おやすみなさい、あとはまた明日考えましょう。」


そう言って、エリオスはわたしに背を向けてソファーに横になった。


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