1年生8月:攻撃(4)
誰かがわたしを抱き起こして、口に液体を注ぎ込んだ。
「苦っ…。」
「ポーションです、飲み込めますか?」
初めて飲んだけど、もうちょっと飲みやすい味にしてほしかった。
不味い栄養ドリンクみたいな液体を無理やり飲み込むと、胃がぽわっと温かくなった。
ちょっと気分が良くなった?
頑張って目を開けると、不機嫌そうな表情を隠そうともしない、エリオスの顔があった。
「エリオス先輩が、なんで…。」
「説明は後でしますが、あの魔物、助けられますか?」
魔物を助ける???
「MPが足りないなら、まだポーションもあります。あのクラーケンに治癒をかけてください。」
エリオスは真剣だった。
ステータスを確認すると、まだMPは800ちょっとある。
「できます、MPは800くらい残ってるので…。」
「800?!」
…なんでそんなに驚いて、しかもため息をつくの?
「『砂嵐』。」
エリオスが魔法を唱えると、わたしたちを隠すように浜辺の砂が舞い上がった。
「他の人が来る前にお願いします。」
わたしはエリオスに支えられながら立ち上がり、クラーケンへ近づいた。
赤い皮膚に手で触ると、まだ生温かくて生きているようだった。
殺したかったわけじゃない。
わけもわからず、敵から逃げるのが嫌だっただけ。
クラーケンの皮膚に焼き付いた十文字の黒い影を指でなぞる。
「ごめんなさい。」
ちょっとやりすぎちゃったよね。
「『蘇生』。」
わたしの体から溢れた金色の光が、クラーケンの黒い十字の傷に吸い込まれて消えた。
―固有スキル『聖女の使徒』の発動を確認、レベルが17から20へ上がりました―
また変なスキルが出てきた!
『聖女の使徒』って何?
ステータスを確認するけどスキルの内容はわからない。
頭痛や倦怠感が消えたと思ったら、魔力がフルに回復していた。
レベルアップ効果で回復するところは、ゲームっぽいかも。
聖属性の魔法だから逆に魔物が傷ついたらどうしよう、とそんな心配は一瞬のことで、もぞもぞとクラーケンの足たちが動くと、本体部分がゆっくりと起き上がった。
『せい、じょ、さま…。』
クラーケンがしゃべった!
『まほう、ありがとう。いのち、おんじん。』
クラーケンが頭を下げた!
『おうさま、も、ありがとう、て。』
ん、王様?
「なかなか面白い余興だったな。」
‥海の上に、男の人が立っていた。
平安時代の貴族みたいな、濃紺の着物のようなローブを着こなし、長い黒髪を高く結って簪を飾っている。
切れ長の目に赤いラインが引かれ、唇も真紅に彩られている、『麗人』という言葉がしっくりくる、美しい男の人。
「ジャスの娘だろう、よく似た強い魔力だ。」
エリオスが砂浜に膝をつき、わたしにも屈むように肩を押さえる。
「…ご無礼をお許しください、海皇様。」
かいおう、さま?
「いや、クララの早合点で娘に迷惑をかけたな。許せ。」
彼がクラーケンに近づくと、クラーケンは足で彼を自分の頭の上に乗せた。
「私の簪をひとつ、ジャスが持って行ってしまっていてな。その娘がジャスの魔力と瓜二つだったから、私に会わせようとクララは考えたのだよ。」
「それで学園に現れたのでしょうか?」
「そうだな。クララの足を切るとはダリアもなかなかやる。」
「あの、教えていただけますか?」
「なんだ娘よ。」
「海皇さまと父は、知り合いだったのですか?」
彼は首を少しかしげて、思い出すようなそぶりをする。
「ジャスは‥友、というものだっただろう。もう16年か、会っていないが。」
「じゃあ、父のことを…。」
「それはまたいずれだな。じきに厄介な奴らが来るから、先に帰らせてもらう。」
彼がクラーケンの頭をなでると、クラーケンはごろごろとのどを鳴らす音を出した。
「ジャスの簪が見つかったら娘が届けにこい。『約束』だ。」




