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1年生8月:舞踏会(3)

ディックのお披露目舞踏会にベリアルも招待されていた。

ダリア魔法学園中等部のかわいい後輩だから、今夜は盛り上げる気持ちで出席した。

ランス公爵家の名前で花も贈った。


「ランス先輩、ありがとうございます!」

普段はいつも面倒がってあまりしゃべらないエコモードな彼が、珍しく子供っぽい笑顔を見せてくれた。

続く挨拶に緊張しているみたいだ。


ホールには飲み物が準備され、別室に軽食が並べられていた。

ブレイカー伯爵が一人息子のディックを紹介し、パーティーが始まる。

一番始めに踊るのはディックたち。

パートナーの彼女はたしか同い年の従姉だったと思う。


ディックはとにかく頭がよくて、先を読んでしまうから何かと動くのを面倒がり、言葉使いも雑だ。

丁寧な言い回しなんてわかりにくいだけで無駄だと言われた。

ただ魔法の勉強だけは熱心にやるし、だから中等部上位だったベリアルのことを尊敬してなついている。


(さすがに今夜は頑張っているな。)

たくさんの挨拶やダンスの申し込みに笑顔で応じている。

ダンスが終わったタイミングで、ベリアルは飲み物を渡して声をかけた。

「ちょっと話さないか?」


額に汗をにじませたディックは露骨にほっとした表情を浮かべてグラスを受け取った。

「ありがとうございます。」

ランス公爵家の息子とならしばらく話していても許されるだろう。


冷えた炭酸水が喉を潤す。

「おじさん、ずいぶん張り切ったな。」

「俺はなるべく小さな規模でって頼んだけど無理でした。」

かなりの貴族が招待されていて、とくにご令嬢の数が多い。


「まあ跡継ぎだし、仕方ないさ。」

ベリアルは公爵家といっても三男なので、お披露目会はささやかなものだった。

「跡取りは大変だな。」

「そんな他人事じゃ‥先輩だってわからないですよ。」

「俺は王国魔術師団に入るんだよ。跡なんか継がない。」


兄達は幼い頃から領地に連れていかれて経営の勉強をさせられていたが、ベリアルはかなり自由に育てられた。

自由というか、放任に近い。

「今日は来てくれてありがとうございます。先輩、夏はいつも王都にいないから無理かなって。」

「ああ、明日から別荘に行くよ。今月いっぱいいるから、よかったら遊びに来てくれよな。」

「はい、ぜひ。」


空になったグラスを換えようと、ベリアルはボーイを探してホールを見渡した。

「‥アリスが来てる。」

ホールの隅で壁に寄りかかって、隣にいる年配の男性は親族だろうか。

濃い青色のスレンダーなドレスはスリットから細い足がチラ見えして、シンプルなデザインだけどどこか妖艶で。


「ええ、マーカー子爵家とは祖父の代から付き合いがあるので。」

「こういう場所、大丈夫なのかな。」

子爵令嬢といっても貴族社会に入ってきたのは最近のことで、舞踏会の経験なんて無いんじゃないか。

「まあ、一回踊ればなんとかなるでしょ。」

ディックは気軽に言うと、

「俺、誘ってみますよ。」

とアリスの方へ向かった。


俺が誘う、とは言えなかった。

アリスと踊りたかった?

いや、ダンスはまた後で申し込めばいい。

なんだろう、この胸にチクッとした、ディックにしてやられたと思う気持ちは。


「ベル、元気だったかい?」

ちょうどクラスメイトのレナードが話しかけてきた。

「おう、夏休みはどうしてるんだ?」

ベリアルはレナードに向き直り、ホールで踊る二人を視界から外した。


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