1年生7月:臨海学校(6)【改稿】
臨海学校は今日のお昼まで。
お昼ご飯を食べたら王都へ帰って、そのまま夏休みになる。
朝食後は班ごとに自由行動になっていたけど、結局全部の班が海岸でビーチバレー対決をすることになった。
できれば水着で、と言われて一応着替えてみたけれど。
「この腹筋はヤバいよね‥。」
我ながら見事なシックスパックを隠すために上から白のパーカーを羽織る。
‥お腹の出ない水着が売ってなかったんだもん。
なんだろう、この世界の水辺は露出高めなのかな?
キャサリンなんてほぼ紐の三角ビキニで、胸がたわわに揺れている。
男子はハーフパンツ型がほとんどなんだけどな。
先月学園長からもらった金一封が銀貨5枚だったので、赤のボーダーのタンキニと、ついパーカーまで買ってしまった。
5対5のビーチバレーは、足元が砂で動きにくいだけで、ほぼ普通のバレーボール。
A班対B班はA班が勝って、次はC班対D班。
タッドとリリカが後衛、わたしとベリアルが前衛で、レナードのサーブから始まった。
レナードがいつもと同じように接してくれて、わたしはすごく助かった気持ちになる。
何回かボールのやりとりがあって、向こうのアタックをわたしがブロックしたらボールが海のほうに跳んでしまった。
「ごめんなさーい。」
わたしは海に浮かぶボールを取るため、パシャパシャと波に踏み入った。
『ミ、ツ、ケ、タ』
え?
前にアリーナで聞こえた、何かの声がした。
穏やかだった波が急に高くなった。
沖から白い飛沫をあげて、高波が浜へ向けて次々に走る。
ピィーッとハンス先生が笛を鳴らす。
「全員上がれー!」
だけど波の勢いのほうが速い。
海に入っていたわたしを含めたC班D班の10人が高波に襲われて流された。
「わっ‥。」
波の勢いが強くて、一気に海岸から沖に引きずられる!
ざぶんと顔が海面に沈む。
浮き上がらないと、と思うけど何かが足に絡み付いて浮かび上がれない。
白い泡で何も見えないけど、右足が何かに引っ張られてる?
‥息が、できないっ‥!
考えようとするけど、頭がガンガン痛んで集中できない‥。
気が、遠くなる‥。
ダメだ、このままじゃ‥。
胸元のクロスペンダントを握りしめる。
みんなを、助けないと‥!
『聖域』
海の中にゆらめく太陽光のように、光の網がペンダントから四方へ放たれた。
その光の箱の中では、まるで時間が止まったかのよう。
荒れる波が凪ぎ、呼吸の苦しさが消えた。
右足をつかむ何かは、光に触れて離れていく。
光の網はレーダーのように、周りの存在をわたしに教えてくれた。
溺れるクラスメイト全員をこの空間に取り込むまで光を拡げる。
(絶対、みんなを助ける‥!)
ー聖属性魔法レベル7『聖域』の発動を確認、レベルが10から17へ上がりました―
わたしを含めて10人、全員この中にいると思うけど誰が誰かまでわからない。
辺りは海の中より真っ白なプールの中に放り込まれたような、穏やかな静かさに満たされていた。
自力で動ける数人が海面へ浮かび上がる。
(ベリアルだ‥。)
彼が男子生徒を抱えて浮かんでいく。
(この中、動いても大丈夫そう。)
わたしは結界の中に残っている動かない二人の救出に向かった。
「全員いるか?!」
ハンス先生とファンさんが砂浜でひとりひとり確認していく。
巻き込まれなかった生徒が溺れた生徒を介抱してくれていた。
「怪我や呼吸が苦しい人はすぐ報告を!」
「アリス~。」
波打ち際にたどり着いたわたしを、イマリが泣きながら抱きしめた。
「もー、怖かった~。」
「なんで、イマリが泣くの‥。」
「お水もらってくる? 日陰に行く?」
「大丈夫だから‥。」
イマリに支えられて立ち上がろうとすると、右足を鋭い痛みがはしった。
「アリス、その足?!」
「あー‥。」
海の中で引っ張られた部分が真っ赤にただれている。
「すぐ先生呼んでくるから!」
イマリが走っていって、わたしはまたその場に座り込む。
水平線の向こうには眩しい夏の空と白い雲。
‥なんかダルいかも。
「マーカーくん、悪いけど治癒魔法はちょっと待って‥。」
駆け寄ってきたハンス先生の顔色が変わる。
「また魔力暴走しかけてる!」
「え‥?」
「ちょっとごめん。」
ハンス先生がわたしの額に手をあてる。
「『睡眠』。」
考える間もなく、わたしは意識を手放した。
「またクラーケンだったのか? 海の魔物がなぜ動く‥。」
「生徒たちに大きな被害が出なかったのが救いだな。」
「‥今回はいいとこなしだったな、ファン。」
「仕方ないか、シナリオが予定より早く進んでいるようだ。」
「『聖域』は属性魔法だ。聖女のレベルが進化しただろう。」
「そういった変化は逐一報告してくれ。それが君の仕事だ。」




