1年生7月:臨海学校(5)【改稿】
臨海学校ハイライトといえばキャンプファイヤー。
海岸に設置された研修所スタッフ力作の炎を囲み、炭火バーベキューを味わった。
1位のA班にはサーロインが振る舞われ、キャサリンが『この程度ー?』と文句言いながらも嬉しそうだった。
「アリス、この焼きおにぎりとじゃがバターってヤバい‥。」
イマリがほっぺにご飯粒をつけて焼きおにぎりを頬張っている。
「美味しいー! ほんと美味しいー!」
「ふふふっ。」
わたしもお腹いっぱい。
みんなわいわいがやがや、くつろいでいる。
自然の中だったからかご令嬢ぶりっこせずにわりと普通に過ごしてしまったけど、それはわたしだけじゃなくて、クラスみんなが少し打ち解けた気がする。
「マーカーさん、ちょっといい?」
わたしに声をかけてきたのは、え、レナード?
「ええ、なにかしら?」
「ここだと‥。」
周囲を気にするのか、ついてきてくれないかと言うので立ち上がり、海岸の松林までちょっと離れた。
「アリーナでは本当にありがとう。僕が生きているのはマーカーさんのおかげだ。」
海岸線を背にレナードが深々と頭を下げる。
「きちんとお礼ができなくて申し訳ない。」
アリーナの件は箝口令が敷かれていて、レナードの家族にも彼が一度死んだことは伝えられていない。
氷の上でのことを知っているのはあのとき居たベリアル、ディック、ファンさん、ハンス先生だけだ。
「オマールくんがそんなことしないで。みんなのおかげ、よ。」
なかなか頭を上げようとしないレナードの肩にふれ、顔を下から覗きこむと、ようやく向き直ってくれた。
月明かりがレナードのきりっとした顔立ちを照らす。
「レナード、と呼んでほしいんだ。」
真剣な声で。
「君が好きだ。」
わたしと彼の距離は一歩前に出ると触れるくらい。
かなりがっしりとした彼の身体が、緊張で強張っているのを感じる。
「僕は伯爵家の次男だからマーカー子爵家の婿養子になっても構わない。どうか結婚を前提に、僕と付き合ってもらえないだろうか。」
「結婚?!」
いやだって、そんな話。
「わたしたちまだ15才ですよ!」
「貴族社会では当然のこと。僕はアリスと生きていきたい、この気持ちは真剣なんだ。」
これまでそんなに話したことなかったよね?
貴族だとこんな感じなの?
「そんな、結婚なんて無理です!」
うろたえるわたしにレナードがたたみかけてくる。
「返事をすぐもらえると思ってない。でも‥アリスと呼ぶことを許してもらえないかな?」
「困ります、困ります‥!」
「ダメかな? ベリアルとは名前で呼んでるよね?」
「それは彼が強引に‥。」
「僕も譲りたくない。レナードと呼んでくれないかな、アリス。」
「あなたとお付き合いはできません!」
だって攻略キャラじゃないじゃない!
強く断るわたしに、レナードが小さな声で尋ねる。
「もしかして、ベリアルが好き?」
「違います!」
自分の声がやけに大きく響いた。
「違います、わたしが誰かを好きになるとかありえません!」
ヒロインは攻略キャラクターに選ばれなくてはいけない。
‥わたしは誰かを選ぶ立場じゃない。
「ありえないって、アリス‥。」
「オマールくんのせいじゃありません、ごめんなさい!」
一目散に走って逃げ出したけど、このままイマリのところに帰るのはまずい。
ちょっと落ち着こうと、みんなから離れた砂浜を一人で歩く。
「みんな楽しそうだなぁ‥。」
暗い砂浜から、キャンプファイヤーの灯りがとても眩しく見える。
ヒロインって、もっとキラキラして可愛くて楽しいものじゃなかった?
そういう『設定』じゃなかった?
「なんでわたし、こんなに胸が苦しいのかな‥。」




