1年生7月:臨海学校(3)
「合宿といえば肝試しだよねー。」
夕食、入浴と終わったA組全員の前で、ハンス先生が高らかに宣言した。
「これは臨海学校の伝統だから全員参加でー。班長は集合ー、班で2人ペア決めといてねー。」
D班の班長はレナード。タッドとリリカは同じ趣味で仲よくなってきてて、わたしとベリアルがペアになる、流れねこれは。
研修所から15分くらい裏の山を沢沿いに上ると、洞窟がある。
奥に祠があるので置いてあるお札を取って帰ってくること。
途中、先生と班長が驚かすのでよろしく。
ペアは8組。順番のくじ引きでわたしたちは最後になった。
「持ち時間10分でよろしくねー。」
各組にマジックカンテラが配られて、最初のペアが入っていったあと、ハンス先生も洞窟に入っていく。
「お前、男にくっつかれても嬉しくねぇんだよ!」
「そっこーで終わらせんぞ、おらぁ!」
洞窟から漏れ聞こえる悲しい会話。
A組20人のうち、女子生徒は5人。キャサリンは班長だから8組のうち半分が男子ペアになる。
男子ペアはダッシュで往復して、5分くらいで出てきた。
一人は半身が凍りつき、もう一人は前髪が焦げている。
「お前ら、中で何があった?」
「気を付けろ、あいつらトラップしかけてる。」
ああ、これお化け屋敷じゃなくて、◯ンディー・ジョーン◯系なのね。
それなら少し気持ちが楽になる。
‥お化け系は結構苦手なのだ。
そうこうしてるうちに、わたしとベリアルの番がきた。
「俺が先に行くよ。」
ベリアルがカンテラを持って前を照らしてくれる。
洞窟の中は真っ暗で、沢の流れがカンテラを反射するのでそれに沿って歩く。
水の流れがあるからか、洞窟の中はひんやりしている。
ぴちょん、ぴちょん、ぴちょん‥。
「ひゃあっ!」
首筋に上から冷たい水滴が落ちてきて、びっくりしたわたしはベリアルの左腕にしがみついてしまい、
「ええっ、アリス?」
力一杯引っ張ったのでベリアルがバランスを崩し、わたしも後ろにしりもちをついてしまう。
ガシャン!
カンテラが割れ、あたりが真っ暗になった。
「え、ちょっと‥。」
急に灯りがなくなって、何も見えない。
「ベリアル、いるよね‥?」
しゃがみこんだまま、手でペタペタとベリアルがいることを確認する。
「大丈夫、今火をつけるよ。」
ベリアルが魔法を使うより先に、天井のあたりにぽ、ぽ、ぽ、ぽ、ぽ、と青白い炎が灯った。
『おいてけ~、おいてけ~』
洞窟の中に女のような声が反響する。
わたしの足首に冷たい感触。
細い青白い手が、右足首にのせられている。
「きゃああああー!!!」
わたしの喉から金切り声がほとばしり、勝手にベリアルに全身で抱きついていた。
「やだやだやだ、とってー!!!」
「アリス!?」
「ここやだ、やだあー!!!」
「落ち着いて」
「足、足にー!!!」
「ああもう!」
パニクるわたしをベリアルは軽々と抱き上げる。
「えっ、なにそれズルいー!!!」
キャサリンの声が洞窟に響く。
ベリアルは来た道を逆走ダッシュして入口近くまで連れ戻してくれた。
「えー、まさかの最終組失格ー?」
わたしがもう少し落ち着いてから2人で洞窟を出ると、ハンス先生がぶーっと唇を尖らせて失格宣言をしてくれた。
「まあいいや、みんないるよねー? 研修所に戻るまでが遠足だから、足元気を付けて帰るよー。」
「みっともないとこ見せてごめんなさい‥。」
ぞろぞろと下る帰り道、一番最後を歩く。
「俺はピーマンが食べられないんだ。」
え?
「子供のときからダメで、今も全然。マジで吐く。」
べえっと舌を出す。
「カッコ悪いでしょ?」
「‥そう、かな?」
慰めようとしてくれてる?
「あの、重かったよね‥?」
「そう? 女の子の重さとか知らないけど、レナードなんかより全然軽いよ?」
アリーナの事件のとき、ベリアルは意識のないレナードを連れて逃げた。
「アリスが諦めなかったから彼は助かった。だからね、」
俺はアリスをすごいと思ったんだ。
「アリスならいつかお化けにも勝てるよ?‥ほら、岩を粉々にしたみたいに。」
「え、これそういう流れなの?!」
ロマンチックな雰囲気と思ったんだけど‥まあいいや。
月明かりの中で振り返ったベリアルの笑顔がとても楽しそうだったから。




