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12月31日:フラッシュバック

「「「飛行フライ!」」」


真下から十字に切り裂かれたその攻撃を、誰も理解していなかった。

わけもわからずただ落ちると感じた瞬間、3人が『飛行フライ』を本能的に発動したのは、魔術士として充分な反応だった。

さらに異常を悟り、とっさにその場から離れようとしたエリオスの対応は正しい。

アリスと繋いだ手を切り落とされていなければ。


ほんの1秒、お互いの重力ベクトルが真逆を向く。

そしてさらに1秒、墜ちていくアリスの顔が漆黒の立方体キューブの中に消えた。


「あ、ああああああー---!!!!」

肘から先を失った右腕。

その痛みを感じるより先に、最期の記憶がエリオスの胸に突き刺さった。


『なぁジェイ、お前が警察サツのイヌだったとはよ。』

殴られてろくに開かなくなった目の前に、下着姿の少女が投げ出される。

『商売モン、勝手に逃がしてんじゃねぇよ。』


潜入していたホストクラブは、客の少女たちを借金漬けにした後、非合法な手口で金を稼いでいた。

風俗や麻薬の売人をさせられるのはまだマシで、一番ヤバかったのが海外への人身売買。

売られるのは身体か、臓器か、どちらにしろ2度とまともに生きることはできない。

店の背後につく暴力団と海外マフィアのルートを探るために。

ホストとして売り上げを稼ぎ、自分の客をイケニエにして、経営陣に食い込んで。


『ほかに仲間いるんだろ、吐けよ。』

仲間を売ることはできない。

どうせ殺されるんだから、俺1人消えたところで問題ない。

俺1人なら。


『おいお前ら、そのガキ好きにしていいぞー。』


…ホントはね、高校ガッコ、行きたかったんだー。


一般的には不幸な、でもよくある程度の家庭環境で歓楽街に入り浸っていたカモネギ少女。

彼女を失っても国家の損失は無い。

目の前の小事より大義を見るべきだと、わかろうとしたのだけど。


『いやっ、やだっ、助けてっ…』


頭の奥底にこびりついて消えない叫び。

エリオス・J・ウォールとして生きても、何度も夢にみた。


「また、俺は…。」

「おい、しっかりしろよ!」

ディックは自分のネクタイを引き抜くと、エリオスの右腕をきつく縛った。

浮いたまま放心しているエリオスは出血のせいか顔が青白く、そばに来たディックへの反応も鈍い。

「俺がわかるか?!」

「………」

「ディック・メイビス・ブレイカー、あんたの後輩だ!」

「お前…そうか、俺は…。」


これまで見たことのないエリオスの反応に、ディックは頭を抱えたくなるのをこらえる。

(くそっ、何が起きたんだ?!)

攻撃を受けた、それはわかる。

でもどこから? 誰から?

頭上で暴れ叫ぶ白竜の声と巻き起こる風で状況を把握できない。

アリスは、ランス先輩は、ファン先生は?


「お前ら、そこから離れろ!」

上から怒鳴られて、ディックはエリオスを引っ張り立方体キューブの上から離れる。

離脱を確認し、安全帯で揺られていたファンはリールを巻きとって白竜の首元へ戻ると、非常用の『雷撃銃スタンガン』を作動させた。

なるべく怪我が軽く済むように、地上ではなく立方体キューブの上に落ちるようタイミングを見計らって白竜の意識を奪う。


「ごめんな。」

気を失って立方体キューブの上に横たわる白竜の頭をそっと撫でて、ようやくファンは周囲の状況を見渡した。

白竜の背に立ったまま見上げると、いつも憎たらしいほど悠々としているエリオスがディックに支えられてようやく浮いていた。

(アリスとランスがいない?!)

「お前たち、あと2人はどうした?!」


問われてもディックは答えることができない。

かろうじてその場にとどまり、周りを見たときにはエリオスしかいなかった。

「すみません、わかりません。ウォール先輩も酷い怪我してて…。」

「わかった、ブレイカーはウォールを医務室に連れて行ってくれ!」


騒ぎを聞きつけたのか、教師たちが立方体キューブの周囲に集まってくる。

その中に生徒たちの姿を見つけて、ファンは苛立ちを覚える。

(何で危ないのに集まってきてるんだ!)


「ブレイカー、早くそいつを連れていけ!」

上空の2人に気づいた生徒たちがざわつき始め、ざわつきがまた生徒を呼ぶ。

学園閉鎖のため生徒たちが私物回収にくると聞いていたが、危機感が無さすぎる。


(さっき、この中から攻撃されたか?)

白竜を立方体キューブの上に置いておくのは危険だ。

それに学園が閉鎖される前に回復させて避難させなければ。


「…ファン先生っ…」

ディックの身体を押し返し、エリオスは動く左手で立方体キューブを指さした。

「…アリスは、その中に…、」


立方体キューブの中?!)


この中に入れるのはファンだけということになっているが、エリオスが極秘裏に中に入っていたことをファンは気づいている。

いつもなら自ら動くエリオスがそうしないという状況。

自分の真下に広がる四角の箱に、ファンは1歩踏み出すべきか躊躇する。

その迷いを見抜いたかのように立方体キューブが揺らいだ。


これまで日中に魔物が出現したことはなかった。


「きゃあっー!」

側壁にかなり近づいていた女生徒が悲鳴を上げた。

後ろに倒れた彼女に大型の黒狼がのしかかって牙を光らせる。

各面に十数頭いるだろうか、四面全てに魔物が現れ、次々と生徒たちの悲鳴が響いた。


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