12月31日:帰路
今は学園に帰らないといけないからー
そうファンさんに促されるまま、ホテルの屋根を踏み抜きそうな白竜の籠に乗せられて。
熱気球の籠みたいだなと思ったそれはとても乱暴に空へ舞い上がった。
ファンさんが操る白竜の足首からぶら下がる藤籠は、飛翔する風を受けてがたがたと揺れる。
他の3人の迷惑にならないよう、籠の四隅に取り付けられた輪っかをぎゅっと握りしめて揺れに耐えていると、しばらくして籠が安定した。
「ああ、海に出たようですよ。」
ほら、とエリオスに誘われて籠から首を伸ばすと、青い海原が眼下に広がっていた。
冬の朝だからかそんなにキラキラしていない、穏やかな青だった。
「貴女の瞳の色みたいですね。」
わたしの肩にもたれるように、エリオスが優しく耳元で囁く。
「そう、ですか?」
「ええ、貴女に何もなくて本当に良かった。」
わたしの記憶が戻ったと知り、エリオスはとても機嫌がいい。
ホテルの部屋でベリアルと殴り合っていたときとは雲泥の差だ。
「あと1時間もせずに学園に着きますからー」
言いかけたエリオスの口から、ふわぁと大きな欠伸がこぼれた。
「ーすみません。」
「いいえ、みなさん寝てないんでしょ。」
わたしとベリアルが海皇様に飛ばされた昨夜も、エリオスたちは学園の守りに就いていた。
夜が明けて守備が一段落したところで、フォッグ・アイランドまで竜を飛ばしてわたしたちを探しにきたのだとファンさんがとても疲れた顔で説明してくれた。
ファンさんは白竜の背に乗っているから、この籠にはわたしとエリオスと。
「エリオスも少し眠ったらどうですか?」
籠の隅にもたれて眠るディックとベリアルを見て、エリオスの表情が少し曇る。
「本当に彼とは何もありませんでした?」
「な、に、も、ありません。」
(あっても良かったのに。)
ふと浮かんだ気持ちを振り払う。
「それより、ベリアルがいなかったらどこにも泊まれなくて凍死したかもしれないんですから、もうケンカしないでくださいね。」
正直、かなり険悪な雰囲気のまま4人で籠に詰め込まれたので、揺れる中でディックとベリアルがさっさと眠ってしまったのはいろいろ面倒だと思ったからじゃないかな。
「…すみません。ただこの1週間、貴女に忘れられてとても不安だったので。」
真っすぐに、エリオスがわたしを見つめた。
ふわふわの前髪からのぞく栗色の瞳が、ふと不安に揺れ、またわたしに戻る。
(ああ、そうだった。)
エリオスはいつだってわたしに愛情を向けてくれていた。
「…またGPS付けましたね?」
そうじゃないと、あんなピンポイントで泊っているホテルにたどり着けない。
エリオスから貰った物はないけど、きっとわたしの隙をついて腕輪あたりに仕込んだんだろう。
「ちゃんと覚えてますよ。貴方のことも、前世のことも。」
日本の公安警察官だった記憶は、エリオスの人生にどんな影を落としたんだろう。
前世の記憶が無ければ、もっと自由にこの世界で生きられたかもしれない。
わたしは今もアリス・トーノで、フォッグ・アイランドでママと暮らしてて。
…夏になったら貴族の彼と出会えないかなと期待して湖畔に出かけたりして。
でもわたしは、わたしたちは。
「一緒に学園に帰りましょう。」
ダリア魔法学園に帰って、みんなに全部を話そう。
同級生:ベリアル・イド・ランス
先輩:エリオス・J・ウォール
後輩:ディック・メイビス・ブレイカー
謎の教師:フレッド・ファン・ウッド
4人は恋愛系RPGゲーム『ダリア魔法学園物語』の攻略対象者たち。
そしてわたしはゲームの主人公、アリス・エアル・マーカー子爵令嬢。
聖女の力をもって騎士と共に魔王に立ち向かう者。
そうして魔王を倒したら。
(ーそうしたらー)




