1年生7月:デート
土曜日、わたしはベリアルと2人で王都市街地へ出かけることになっていた。
彼との約束『三ツ星パティシエの店』
ダンジョン行きで流れたと思っていたのだけれど、イマリとの帰り道で予定を聞かれて、土曜日は王都に買い物に出たいからと言うと、方向一緒だからちょうどいいよねと言われて、イマリも誘ったけど何言ってるのという表情で断られて。
10時30分に学園入口で待ち合わせ、できれば動きやすい服で制服NGと言われて、シンプルなミニワンピースを着ている。
ラピスラズリのような深い青色。
祖父は令嬢コーデしか買ってくれないのでもともとはマキシ丈だけど、学園に来てから自分で膝上まで詰めたお気に入りだ。
(休みの日に出かけるとか、初めてかも‥。)
子爵邸ではわたしが買い物に出る必要がなく、入学してからは全部学園内で調達していた。
前に住んでいた村と環境が違いすぎて、一人で街に出るのが怖かったのが本音。
目立たないようにシンプルなコーデにしたけど、変じゃないよね?
ちょっとわたし、浮かれてる?
「おはようアリス。」
10時ちょうどにやってきたベリアルは赤い自転車に乗っていた。
白いTシャツに濃いネイビーのデニムとラフな格好だ。
「自転車だ、懐かしい~。」
村では持っていなかったから乗ったことがないけど、女子高生のときは普通に乗ってた。
「懐かしい?」
「『珍しい』。貴族さんが乗るなんて。」
「そう? 便利だし、アリスも乗れるよね?」
「多分。」
「じゃあもう1台借りてくるから、これ使ってて。」
ベリアルが赤い自転車を譲ってくれる。
ダリア魔法学園とタグが付いているから、学園のレンタルなんだろう。
久しぶりに自転車でぐるぐる回ると、子供の頃に戻ったみたいだ。
「ふふふっ。」
「多分って、俺より慣れてないか?」
ベリアルが青い自転車を借りてきたのでそのまま2台で出かける。
坂道を風をきって下る、新緑の葉の陰と初夏の光のコントラスト。
「気持ちいい~。」
なんかこういう自転車で坂を下る歌があったよね。
自転車に2人乗りするんだったっけ?
「スパッツか‥。」
「何か言った?」
わたしのすぐ後ろをベリアルがついてきている。
「もうすぐ坂が終わるから気を付けてー。」
「はーい。」
「そこ左で。」
「はーい。」
20分くらい走ると、家や店が建ち並ぶエリアに入った。
その中の白い家の横でベリアルが自転車を停める。
普通の家に見えたけど、塀にそって行列ができていた。
「こっちこっち。」
ベリアルに手招きされて、勝手口から入ってしまう。
満席の中確保されている窓際の席に案内され、シェフと女性のパティシエが挨拶にきてくれた。
「ようやくお越しいただけて嬉しいかぎりです。ごゆっくりおすごしくださいませ。」
ベリアルに丁寧に挨拶をして、わたしにも会釈をしてから、前菜が運ばれてくる。
そんなに量が多くないランチコースを美味しくいただいて、目当てのスイーツバイキングは大きなテーブルに色とりどりに盛られていた。
「んー、幸せ~♪」
冷たいレアチーズケーキがクリーミーでわたし好みだった。
ひとくちサイズのロールケーキ、タルト、ブリュレ、モンブランなどなど。
全種類を味わったわたしと反対に、ベリアルはアイスコーヒーを飲むだけだった。
「ベリアルは食べなくてよかったの?」
「うん、スイーツはあんまり得意じゃないんだ。」
「じゃあ何でこのお店に?」
「パティシエの女性がうちで前働いてくれてて、」
ああ、さっきの挨拶はそういうこと。
「母が出資したり、まあいろいろ縁があって来てみたかったんだ。」
縁。
わたしの好きな言葉。
「そうよね、『ご縁』って大事よね!」
意気込んでつい声が大きくなってしまった。
ベリアルはびっくりしたのか息をのみ、それから楽しそうに笑った。
すっと逞しい腕が伸びてきて、骨太の指でわたしの唇についたクリームをぬぐう。
「今日は『ご令嬢』やらないんだね。アリス・エアル・マーカーさん?」
ベリアルはペロリと指先のクリームを舐めとった。
「ご縁というなら、俺とアリスが隣の席なのもそうなのかな?」
「それは、」
『設定』、と言いかけて言葉をのみこむ。
そう、これは設定。
ベリアルが笑顔をむけてくれるのは、わたしがヒロインだから。
爽やかだとばかり思っていた彼の、ドキッとする仕草に見とれてしまうのは、わたしがヒロインだから?
『運命かもしれないわね。』
ヒロインなら、可愛く小首をかしげてそう言うのだろう。
そうしたらベリアルも顔を赤らめるのかな。
半分くらい残っていたアイスティーを飲み干して手を合わせる。
「ごちそうさまでした。」
財布から銀貨を1枚出してテーブルに置く。
「とても美味しかったわ‥それではまた学園でね。」




