1年生7月:研修準備
来週明けから2泊3日の臨海学校が始まる。
班は5人ずつ×4つ、配席の横並びで組まれた。
わたしの左の席はベリアル・イド・ランス、右はリリカ・ノービス。
リリカと一緒の班とか、うまくやれる気がしない。
いつもは縦並び分けで、4班の男子とも役割分担ができてきたのに。
(イベント強制かな‥。)
臨海学校はベリアル専用の好感度イベント。
『臨海学校』
孤島の研修所で行われる2泊3日の1年生学校行事。
洞窟探索や魔物討伐、キャンプファイヤーなど好感度を上げる要素が満載。
好感度が一定値をクリアすると、2泊目の夜に隠しイベントが発動する。
ベリアルルートを狙わないなら極力彼との会話選択を外し、実地研修でのパラメーター上げに専念すべし。
うん、確かこんな感じだったはず。
学園が舞台である以上、どうしてもクラスメイトのベリアルしか絡めないイベントがある。
同じ班になると実地研修も一緒になるから、これは好感度上げの大チャンスだけど。
「マーカーさん、聞いてる?」
今はホームルームの時間を使って、班別打ち合わせ中。
班を仕切っているのはベリアルではなく、レナードだ。
「ええ、オマールさん。お話を進めましょう?」
わたしアリス・エアル・マーカーが組むD班は、レナード・ダイス・オマール、タッド・ジャスティ、リリカ・ノービス、ベリアル・イド・ランスの5名構成。
グラディス湾の孤島の研修所に現地集合と言われて、移動方法を決めているところだ。
王都の南の海『グラディス湾』には小さな島々が浮かんでいて、夏の観光地になっている。
この諸島は王家の財産で、半分は一般向けリゾート地だが、残り半分は演習場として整備され、王国魔術師団や騎士団が研修に使っているそうだ。
ダリア魔法学園もその研修棟を借りて臨海学校を行うのだが、今年は他団体と被らなかったため、1年生はクラス毎に別々の島に滞在してより練度の高い研修を行う、との通知があった。
A組みんなを学園から連れて動くのが面倒になったんだろう、ハンス先生が班ごとに現地集合にすると言い出した。
「10時に現地集合なら9時前の船に乗らないといけませんね。」
リリカが時刻表を取り出して調べ始める。
「8時半までに港‥ならグラディス駅発ね。この時期ならサマー臨時便が出てるし、せっかくならフルラッピング車両を狙いましょう。」
「ちょうど明日からシーサイドエクスプレスにマリンブルーカラーの車両が導入されるよ?」
「あれは夏って感じでわたしも好きだけど、わたしは臨時便重視派なので。」
リリカの鞄からなんで時刻表の冊子が出てくるのかと思ったけど、タッドとのこの会話、乗り鉄女子だったみたい。
夏休みは寝台特急の予約がとれたので隣国まで出かけるの、隣国で古い蒸気機関車を見に行くの、と二人の話が脱線していく。
いつものリリカと違って、なんだか生き生きしていた。
結局朝7時に王都中心部のグラディス駅集合ということになったのだけど。
「みなさんはどうやってグラディス駅まで行かれますの?」
学園からグラディス駅まで、ゆうに馬車で1時間はかかる。
「週末は家に帰ってるから、当日駅まで親に送ってもらうつもり。」
当たり前のようにタッドが答える。
ダリア魔法学園は全寮制だけど、週末、実家になら外泊許可を取ることができる。
わたしは寮の部屋にこもりがちで気にしていなかったけど、とくに女子生徒は週末帰っていることが多い。
王都市内に実家があるなら、そちらからの方が近いだろう。
A組は貴族子弟が多く、庶民出の子もわりと裕福な家庭だ。
魔法の才能を伸ばすのには、ある程度財力も必要だということなのだろう。
わたしは入学以来、一度も子爵邸に帰っていない。
本邸のある領地は遠いし、王都の別邸は入学前に少し滞在しただけで‥一応、わたしの部屋もあるのだけど。
「そうですね、荷物を早めに準備しないといけませんわ。」
わたしはご令嬢仮面の無機質な笑顔で返していた。
ご令嬢ぶりっこも最近は板について、それなりに楽しめているのだけれど。
「みんな、水着忘れないでくれよ!」
ベリアルの陽気な声がわたしの顔に体温を戻した。
「泳ぐ予定なんてないだろ? 携行品リストにもないし。」
「何言ってるんだレナード。南の島に行くんだぞ、泳ぎたくなるに決まってる!」
それからレナードとタッドの肩を叩いて何か囁いた。
「そうだな、まあみんな持っていくようにしよう。」
「賛成。海の魔物討伐になるかもしれないし、あった方が安心だ。」
んー、ちょっと茶番な気がするけれど。
リリカとわたしも水着を持っていくことを約束した。
(水着、持ってないんだけどなぁ…。)
ダリア魔法学園には、というかこの世界にはプールがない。
祖父は学園生活に必要なものしか準備してくれていないのだ。
‥週末、イマリを誘って買い物に行こうかな。




