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1年生4月:入学式(2)

入学式の会場で指定された席に浅く腰をかけ、背筋を伸ばす。

同じ制服に身を包んだ入学生総勢100名は、全員に寮生活が義務づけられている。

祖父の家に引き取られてから食生活の改善で肌も髪も艶やかになり、そんなに見劣りはしないはず。

髪はまだ肩を少し超える長さで子爵令嬢としては短かすぎるけど、元が短かったので仕方ない。


―さあ、胸を張れ。

どんな試合だって、初めから気持ちが負けていたら勝てはしない。


入学式はブラスバンドの演奏で始まった。

生徒ではなく、先生たちの趣味らしい。

演奏が始まると野球ドームのように講堂の屋根が開き、上空から真っ白な竜が降りてきた。

白竜が天井付近を旋回すると、その背からこれまた真っ白のスーツを着こなした男性が壇上に飛び降りる。


(派手な登場…!)

新入生、保護者たちから喝采が起きる。

彼がすっと右手を掲げると、演奏がピタリとやんだ。


「学園長、挨拶! 新入生、起立、礼、着席!」

「新入生諸君!」


壇上の学園長の声は風の魔法がかかっているのだろう、適度なボリュームで響き渡った。


「ようこそ、ダリア魔法学園へ! ここへ集められた諸君は、みな中等部で優秀な成績を修めた者ばかりだ! 君たちの成長を心から期待している。友といっしょに頑張りたまえ!」


学園長がオーバーリアクションで両手を広げると、保護者席から奥様方の悲鳴が聞こえた。


「生徒会長挨拶!」


壇上の横手から優雅に現れたのは、先ほどのエリオス・J・ウォール、2年生の生徒会長だ。

身長175センチでやせ型、ふわふわの栗色の髪とそれより少し色の薄い瞳がとても優し気な印象。

公爵家の出身、土系魔法を得意とする防御の要、というのがゲームの設定だ。

挨拶自体はそつの無い内容だけど、優雅な王子さまスマイルで極上の挨拶になっていた。

女子生徒、奥様方、はたまた男子生徒たちまでが聞きほれている。


‥ほんと、破壊力半端ないわぁ。


「新入生代表挨拶、ベリアル・イド・ランス!」

「はい!」


新入生代表で前に出た彼も、攻略キャラクター。

ツンと短く整えた赤髪に、黒い瞳が意志の強さを感じさせる。

身長はわたしより少し高いぐらいで、親しみやすい雰囲気だ。

火系魔法を得意とする特攻タイプで、運動神経抜群だったはず。


「栄えあるダリア魔法学園の名に恥じぬようー」

彼は新入生らしい元気のある声で、姿勢正しくすらすらと挨拶を終えると、くるりと新入生側へ向き直り、

「みんな、がんばろーぜっ!!」

右こぶしを高く掲げる。


それに合わせてわたし以外の全員が立ち上がり、『おーっ!!』と応じた。


‥どうもわたし以外には話が通っていたみたい。

みんないくつかの中等部から集まってきているから、新入生でもある程度ネットワークがある。わたしだけが誰も知らない、孤立した『編入生』。

そういう『設定』なのだけど。


そのままクラスごとに名前を呼ばれ、担任に連れられて教室へ向かう。

魔法のレベル別に20名ずつ、5クラスに分けられる。

ひとつもまだ魔法が使えていないのに、わたしは最上位のAクラスだった。

名前を呼ばれたとき、新入生たちがざわざわした。


急に高等部から入ってきた、庶民育ちの子爵令嬢。

魔力は強大だけど、コントロールはいまいち。

失敗ばかりで貴族らしくない行動も多い。

だけど不慣れな環境にも負けず一生懸命授業を受ける彼女に、奇異な目で見ていた貴族令息たちの態度も変わってきてー。


『…どうしてだろう、君から目が離せないんだ…。』


いやいやいやいやいや。

わたし、この展開やらなきゃいけないの?

確かに魔法はノーコンだけど、他の令嬢みたいに澄ました表情をキープできないけど。


攻略対象の選択肢をクリアして好感度アップなんて、恥ずかしすぎるでしょー!!

 

子供の頃から大人びていると言われてきた。

今なら体と精神年齢が釣り合って、女子高生らしく恋もしてみたいと思う。

前世は部活ばっかりで、恋にときめく暇もなかったから。


でも、攻略ってなんだか嫌だ、フェアじゃない。

実際に彼らを見てしまうと、そう感じてしまう。


だけど。


好感度が上がらないと修得出来ない魔法がある。

恋愛イベントを発生させないとゲットできないアイテムがある。

…それがないと、魔王を倒すことができない。


わたしは治癒魔法しかマスターできない設定になっている。

聖なる治癒魔法を魔王に叩き込むことで動きを封じ、パーティーメンバーが止めを刺さなければならない。

魔王に勝つために必要なレベルは最低60。

自分のレベルはわかるけど、他人のレベルまで見通す能力はない。


つまり、自分だけじゃなくパーティーメンバー候補のレベル上げもしないといけないということ。


わあ、かなり忙しい2年間になりそう。


廊下のガラスに映ったわたしの顔は、倒れて籠っていたあいだにすっかり色白になった頬が緊張でほんのり赤くなっている。

こじんまりした顔立ちには若干大きめなブルーグレーの瞳。

ちょっと表情が不安げだけど、真っ直ぐな金髪を耳の位置でハーフアップにしてすっきりさせて、薄い唇の口角を少し上げれば、清楚と言えなくもない、凛とした子爵令嬢の出来上がりだ。


前世の顔は覚えていない。名前も思い出せない。

わたしは今も昔も、『アリス』なんだから。

 

意を決して、1年A組の扉をくぐった。


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