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1年生6月:迷宮(4)【改稿】

ダンジョンの岩壁はひんやりしていて、体が冷えてきた。

ちょっとだけファンさんにくっつきたい気持ち。

寄りかかってみようかな‥。


「アリス!」

ダンジョンの向こうからベリアルの声がして、ハンス先生たちがバタバタと駆け寄ってきた。

「アリス、怪我はないか!?」

ベリアルがわたしの前にしゃがみこんで顔を覗きこむ。

汗だくだけどその表情は青ざめていた。


「ごめん、俺が、俺が、」

「申し訳ありません、盗掘対策の罠が作動してしまったようです。」

エリオスが神妙に頭を下げる。

「ウォール、ちょっと。」

ファンさんが隠し扉へエリオスを連れていった。

中に閉じ込めた冒険者もどきのことを話すのだろう。


「マーカーくん、立てるかな?」

ハンス先生が横から支えてくれた。

「ごめんねー、レベル上げに夢中になっちゃってて、怪我してない?」

ごめんねと言ってても相変わらずの薄ら笑い。

実は心配してないよね?


「‥落ちたときの衝撃ぐらいです。」

「その程度ならOKだよねー?」

「‥そのあと変な人たちに襲われましたが、ファンさんが守ってくださいました。」

「あー、それは、」

ハンス先生は何か察したのか、ファンさんとエリオスが話しているほうに視線を向ける。


「冒険者狩りがいたかー。」


今度はさすがに申し訳なさそうにわたしに手を合わせる。

「ごめんねー、これは俺のミスだねー。」

だからさ、と青い顔のベリアルの肩をたたく。

「ランスくんのせいじゃないから。とりあえず魔鋼をさっさと採ってここを出ようね。」


ここは地下3階と思っていたけれど、実は地下4階だった。

わたしは2フロア分の高さを落ちたそうで、しばらく動けなかったのもそのせい。

いきなり真っ暗な中に落ちて、一瞬のことで対応できなかった。

ゲームでもダンジョンに落とし穴があったけれど落ちてもHPが少し減るだけで、リアルだと痛いんだなぁ…。


ハンス先生たちはわたしたちが落ちたことに気付いたけれど、3階を突破するのに手間取ってしまったとのこと。

ダンジョンは地下にいくほど吹き溜まった魔力が濃くなるため魔物が大型化するし、魔鋼の純度も高くなる。

予定の3階より進んだことをラッキーと思う…しかないか。


「よし、アリスの魔鋼も俺が採ろう。」

ベリアルは自分の顔をパンっと叩き立ち上がる。

「そうそう、過ぎたことよりこれからのことだよー。」

ハンス先生は地図を広げ、腕時計で時間を確認する。

「あと1時間くらい頑張れるよね? せっかく4階まで来ちゃったから、もうちょっと進んでみようかー。」

悪い奴らのことは任せるね~とハンス先生はわたしとベリアルを連れて歩きだした。


「魔鋼とはどのように採るのでしょうか?」

ハンス先生に言われるままここにきたけど、わたしは何をするのかよくわかっていなかった。

「えーっとね、」


このダンジョンは元々が銀山で、採掘が終わって廃坑になっていたところに魔力が吹き溜まり、魔物が発生するようになったものだ。

地面や壁はごつごつした岩肌で、その中に時々キラリと光る鉱石や原石が混ざっている。

ハンス先生は千枚通しのようなものを取り出すと、黒い部分をカッ、カッ、と突いて指先くらいの塊を掘り出す。


「これが魔鉱石だねー。君たちが必要な量だと両手いっぱい分くらい集めたらいいかな。」

「けっこう手間がかかるのですね。」

「面倒だから岩の塊ごと持って帰るんだけど、この先にいい場所があるんだよー。」


しばらく道なりに進み、こっちだよと細い壁の隙間を3人で無理やり通り抜けると、広い空間に出た。

人が掘ったのではない、天然の洞穴。

円形の空間の中央に大きな水晶のような柱があり、蒼く淡い光を発している。


「綺麗…!」

思わず駆け寄って石に触ると冷たさが心地いい。

石の中央から青いレーザーが出ているような感じで、暗い中、わたしの姿が蒼く照らされる。

「すごいな…。」

ベリアルもわたしの隣にきて、石にそっと触れる。その大きな手が青く光り輝き、中を覗き込む横顔がくっきりと浮かび上がる。


「『魔水晶』って捻りのない名前なんだけどねー、蒼いやつは魔鋼のブースト効果があるんだよー。」


ハンス先生が小さな塊を拾い上げる。

「こんな綺麗なのに手付かずなんですか?」

思いついたことを聞いたら、ハンス先生とベリアルが顔を見合わせて苦笑した。

「今は魔鉱石や魔鋼も需要がないからねー、採ってもあんまり金にならないし。」

「需要?」

「魔王が封印されて魔物の襲撃がなくなったからねー、冒険者たちも稼げなくなって、だから冒険者狩とか始めちゃって困ったもんだよねー。」


「でもダリアでは魔物討伐の訓練をしますよね?」

「んー、それが学園長の方針だけど、こんなに戦闘重視するのダリアくらいだよー。他の学園だともっと就職向きの講座が多いし、魔術師団希望者とかには人気だけどねー。」

「そうなの?」

ベリアルがうんと頷く。


「アリスのお父さんのおかげだよ。」

父のおかげ…?


「そろそろ昼時だし、いくつか魔水晶を拾って地上に帰ろうかー。ウォールくんとこの事務所でお昼食べさせてもらうことにしてるし、お腹減ったよねー?」

足元の拳くらいの水晶を拾うと、ベリアルがまとめて袋に入れて持ってくれる。

「じゃあ腕輪のこのボタンを押してねー。」

ダンジョンの入り口で渡された腕輪の、文様の中央の赤い飾り石をハンス先生が指す。

お先に、とベリアルが押すと、腕輪が光ってベリアルの姿が消えた。


「ほらほら、マーカーくんもー。」

ほんと、この先生ぜんっぜん説明しないわ。

脱出アイテムなんだろうとボタンを押すと、腕輪からなにか生暖かい空気がわたしをぼわんと包み、その空気がぎゅぎゅっとわたしに圧縮されてきて、圧の反動でポンっとダンジョンの入り口に押し出された感じで転移していた。


朝方の雨はもう上がっていた。

「お帰りー。」

先に出ていたベリアルが笑顔で手を振ってくる。

「ただいま…?」


こうしてわたしの初めてダンジョンが終わったのだった。


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