1年生6月:魔装具(2)
ヒロインの魔装具は『クロスペンダント』。
聖なる守りの力を宿した魔装具で、魔法防御力がアップする。
特殊効果で魔物や魔族に対して強力な結界を発動する。
なので、わたしの魔装具も『クロスペンダント』になる。
ただし攻略対象者の好感度が高くないと特殊効果が付与されない。
ということは。
「誰かと仲良くしなきゃなんだよね…。」
明日には魔石が出来上がるかもしれない。
前回の模擬戦イベント『初めての魔物討伐』は出現ルートが混在してて、攻略キャラとの好感度がどうなっているか判断できなかった。
結局はわたしの魔力が暴走してそれを助けてくれたのがエリオス先輩なので、エリオスルートが一番濃厚なのかな?
「よし、エリオスを探そう。」
昼休み、イマリは班で話し合いをするからと今日は別行動。
生徒会長だから生徒会室とか探してみようかな。
エリオスの押しは恥ずかしいけど、耐えてヒロインらしく応えたらきっとゲームのように好感度が上がるはず。
「アリス、今日は一人? ミス・カンザスは一緒じゃないの?」
教室から出ようとしたらベリアルが話しかけてきたので、ご令嬢スイッチをオンにする。
「イマリさんは2班のみなさんとランチミーティングされるそうです。」
「そっか。俺は本部近くの食堂に行こうと思って。」
「そういえば美味しいと言ってらっしゃいましたね。」
入学式の日、ベリアルがそう言っていた。
「そうそう、じゃあ行こうか。」
ん?
ベリアルはすっとわたしの手首をつかんで歩き始めた。
わりとしっかりした力で引っ張られる。
昼の学園を男子に手を引かれて歩くとか、なんか見られてる気がする!
「あの、手を放していただけません? というか、何で一緒に?」
「大丈夫、ほんと美味しいから。」
歩くペースも早くて、止める隙間がない。
というか、ちょっと強引でベリアルらしくない。
わたしは力をこめて立ち止まる。
「ベリアル、わたしの返事も聞かず、ちょっと失礼じゃありません?」
「あー…。」
そっか、ごめんと手を放して。
「アリス、一緒にお昼を食べよう?」
真正面から満面の笑顔で、ベリアルが誘いの手を伸ばす。
‥卑怯なっ‥!
なんか急に素直にこられたら断りづらい。
なにより笑顔がカッコいい‥!
差し出された手をペチンとはじいて。
「ほんとに美味しいんでしょうね?」
「おー、こーいうのツンデレって言うんだっけ。」
「デレてない!」
「手をとってくれてもいいのに。」
「ひとりで歩けます。」
ベリアルの隣を早足で歩く。
「普通、ご令嬢は後ろからついてくるもんじゃない?」
「わたしは隣の方が好きです。」
「なるほど、いつも俺の隣にいたいと。」
「なんでそうなるんですか!」
くすくすとベリアルが笑う。
‥もう、ほんとに調子が狂う。
顔が真っ赤になんてなってないんだから!
学園本部1階の職員食堂はシンプルな内装で、大人の利用者が多かった。
学生食堂よりメニューが凝っていて、量が少なめだけど値段はこちらのほうが高い。
美味しさより量で学生食堂のほうが人気らしい。
「ロコモコ丼がある!」
「ハンバーグ好きなんだ。」
「大好き!」
「‥普段からそうしてりゃいいのに‥」
「ベリアルは何にします?」
「俺はカレーの気分かな。」
わたしたちは食券を買うとトレーを持って並ぶ。
食券は先生たちや外部の人は有料、生徒は券売機に学生証をタッチすれば無料で買える。
ちなみにこの学生証、他人に貸して不正使用された場合は問答無用で退学になる。
「いただきます!」
手を合わせてハンバーグをほおばる。
熱々の肉汁がジューシーでほんとに美味しい。
「美味し~い!」
「な、美味いだろ?」
わたしの向かい側でチキンカレーを食べているベリアルが、楽しそうに笑った。
「ベリアルはカレーが好きなの?」
「んー、辛いのが好きかな。甘いものは苦手。」
なるほどなるほど。
「アリスは甘いもの好き?」
「ええ、大好きです!」
「そっか。王都に三ツ星のパティシエの店があって凄い人気らしいよ。行ってみたくない?」
「行きたい!」
「じゃ、次の土曜日な、約束。」
ベリアルが右手の小指を差し出す。
「!!!」
食べ物につられて、何か約束してしまった?
「ほら、指切り。」
わたしはちょっとだけ小指を絡めるのが精一杯で。
ロコモコ丼の残りを大急ぎで食べると、
「すみません、わたし用がありますので。」
トレーを片付けて先に立ち上がる。
「ん、じゃあ詳しいことは教室で。」
なんだかわたしが攻略されてない?
しっかりしろ、アリス・エアル・マーカー!




