1年生6月:魔装具(1)
「はーい、来月はみんなが楽しみにしてる臨海学校がありまーす。」
朝のホームルームでハンス先生が出席をとったあと、7月の中旬に予定されている2泊3日の臨海学校のことを話し始めた。
「班なんかはおいおい決めるけどー、みんなが一番準備しないといけないのはー」
黒板に『魔装具の製作』と書いて、プリントを前から配る。
「臨海学校で魔装具の実地研修をやるので、これからみんなには自分専用の魔装具を作ってもらいまーす。」
『魔装具の作り方』
1)魔石に魔力を吸収させる
2)魔法陣の中央に1の魔石と魔鋼を持って立つ
3)魔物と闘うイメージで魔法陣を起動する
4)オリジナルの魔装具が完成!
「要は対魔物のオリジナル武器製作だねー。」
「オーダー魔装具って、店で頼むとすごく高いよな。」
「さすがダリア。」
「俺の魔装具、絶対剣がいいなぁ。」
男子たちがわくわくし始める。
ダリア魔法学園高等部は完全学費無料、寮費無料。
授業の中で使うものについても全部無料なので、タダでオリジナル魔装具が手に入るということ。
「このまま1時間目の講義は魔装具製作になるので、魔装具師の先生を紹介するねー。ジョーイ先生どうぞー。」
「はーい、みなさんおはようございまーす!」
テンション高めの声で教室に小柄な女性教師が入ってくる。
ピンク色のストレートの髪、色の入った丸眼鏡、黄色のローブに緑色のマントと、赤色のとんがり帽子と派手な服装。
派手な格好でいまいち年齢がわからない。
「魔装具師兼美術教師のジョーイでーす! ふふふ、A組のユー達ならステキな魔装具出来るよねー、もうドッキドキー。」
あ、ちょっと変わった人っぽい。
「ま、ず、はー、魔石ちゃんとのお見合いー。」
「はいはい、みんな机動かしてー、真ん中にスペース作ってー、これ敷いてー。」
ハンス先生の指示でみんなテキパキと机を寄せて教室の真ん中に丸いスペースを作り、そこに赤いベルベットの布を広げる。
「じゃじゃじゃーん!」
ジョーイ先生は持ってきた籠から大量の魔石を布の上にぶちまけた。
勢いよく、色とりどりの魔石が散乱する。
転がりすぎていくつか布から飛び出してしまっている。
「もー、ジョーイ先生、扱いが雑ー。」
「ハンス君こまかーい。いーのいーの、これはフィーリングだから、みんな好きな魔石を手にとってみて。ビビッときた子が相性のいい子だからね。」
つるっとした石、欠けたような石、層になっている石、赤、青、緑、黄色、紫、透明、拳くらいの石、粒みたいな石と様々だ。
みんな床に膝立ちになって、手近な石から触ってみる。
「色は属性に関係あるのかな?」
「やっぱ大きい方が強力じゃないか?」
「ビビッとくるってどんな感じ?」
わたしも綺麗な紫色の石を握ってみるけど、んー、よくわからない。
そういえば前世では天然石のブレスレットを持っていた。
水晶とローズクオーツを交互につないだブレスレット。
『恋愛運上昇』のブレスレットだったけど、特に何もない高校生活だったなぁ。
「あっ…これ好きかも。」
楕円形のピンク色の魔石。
人差し指で触れると、ほわんと指先が温かくなった。
「ユー!」
「わっ!」
ジョーイ先生、急に指ささないでください!
「その子と一緒に、カモーン!」
その子ってこの石?
ピンク色の魔石を取ってジョーイ先生のそばに行く。
「はーい、この子を両手でハグしまーす。」
ジョーイ先生はわたしの両手を合わせて魔石を挟み、さらに自分の手を重ねてぎゅぎゅっと圧をかける。
「『融合』」
「熱っ!」
ジョーイ先生の言葉で、じゅわっと手の中の魔石が溶けてなくなった。
「んー、いい感じにひとつになれました!」
「ジョーイ先生、今の魔法はどういうことでしょう?」
わたし、結構熱かったんですけど!
「ノープロブレム!」
「いえ、できれば説明いただきたく…。」
「えっとねー、魔石は一度体の中に取り込むことで魔力を吸収するんだよねー。」
横からハンス先生が補足してくれる。
「魔力がなじんで魔石が安定したら手のひらから出てくるからねー。」
手のひらから、出てくる?
「勝手に出てくるの!?」
「そうだよ、マーカーくん。ポロっと落ちるからなくさないでねー。」
「…寝てるときに出てきたらどうするんですか?」
「だいじょーぶ、かなり痛いから目が覚めると思うよー。」
かなり痛い、にクラスメイトたちがざわざわした。
「はーい、ユー達もハリィアップ!」
「さあみんな、気になる魔石を見つけたらジョーイ先生に持ってってねー。まず魔石の準備が終わらないと製作に入れないからねー。」
クラス全員の分が出来上がるまで、午前中は魔装具製作の授業になるとのことだった。
「ユーの魅力を魔石ちゃんたちにアッピールするのでーす! 相思相愛こそ、世界最強! ラブアンドピース!」
「魔石が決まった人は、魔装具の形状を考えておいてねー。プリントにいくつか種類上げてるけど、オリジナルだからまあなんでもありだし、イメージが大事だからねー。」
芸術は爆発だ的な感じでジョーイ先生の情熱が教室に溢れ、いつもと変わらない笑顔でハンス先生が淡々と授業を進める。
わたし専用の魔装具かぁ‥。
さてさて、どうしようかな?