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2年生8月:海(1)

『朝8時に港集合ね』

で祖父の出勤のついでに馬車で送ってもらうと、リリカと、イマリと、それぞれの彼氏が一緒に待っていた。


「おはよう、スーザンは?」

「お母さんが火傷して、お店の手伝いになったんですって。」

スーザンの実家は王都で人気の定食屋で、一人娘の彼女は料理人の彼氏とお店を継ぐことになっている。

「そっか、残念ね。」

わたしはリリカと、その隣に立つ彼氏ーA組のクラスメイト、タッド・ジャスティに目を向ける。


「えっと、今日はジャスティくんも一緒なのね?」

「うん、よろしくね、マーカーさん。」

タッドはA組でおとなしいほうだけど、派手な雷撃が得意な攻撃系だ。

リリカとは鉄オタつながりで結構仲良くやっているみたい。


そして初めて会う、イマリの彼氏。

1つ年下の彼をイマリはアイリス魔法学園中等部の頃から意識していて、今年ダリア魔法学園に合格したときからお付き合いが始まった。

学園で紹介してくれないなと思っていたけど。


「初めまして、ダン・ロックウェルです。」

青く染めてアシンメトリーにセットした髪にハイブランドのTシャツとハーフパンツを着こなしたやたらイケメンの彼は、爽やかに白い歯を見せてわたしの手を握る。


「いつもこいつと仲良くしてくれて、ほんとにありがとう。」

ん?

「あのマーカー師団長のお嬢さんと友達なんて、こいつにしては上出来だなって。」

んん?

「俺のことはダンって呼んで。俺もアリスって呼ぶし。」

んんん?


「えっと、急に名前呼びは‥。」

「え、やっぱ貴族サマは俺たち庶民と仲良くできない感じ?」

「そんなことは、」

「じゃあいいじゃん。ね、アリス。」


イマリを見ると、そんなダンではなくわたしに不機嫌そうにしている。

(そんな顔されても‥。)

リリカを見ると、さあねと肩をすくめられた。

「じゃあみんな行こうか。楽しみだなー。」

「待ってダン、これチケット。」

島に渡る船に向かおうとするダンをイマリが追いかける。

ダンは手ぶらで、イマリが大きなバッグを持っていた。


「ほら、ディックも行くぞ!」


状況を整理しきれないわたしに、さらにダンの言葉が追い打ちをかける。

少し離れた所に不機嫌そうに立っていたのは。


「ディックくんがどうして?」


「後で話す。」

ディックはわたしの隣に並ぶと、わたしのバッグを手に取った。

「え、いいよ。自分で持つし。」

「あんたもたまには甘えろよ。」


エメラルドグリーンの瞳が少し和らいだような気がして、わたしは素直にお願いすることにした。


船ではそれぞれカップルで固まってしまって、わたしは風のあたるデッキでジュースを飲みながらディックと座っていた。

これから行く島は、去年の臨海学校で過ごした島だ。


「ディックくんは臨海学校で行ったばっかりじゃないの?」

「ああ。」

「ていうか、どうしてディックくんが一緒なの?」

「俺が邪魔?」

「そうじゃないよ!」

わたしは慌てて手を振る。

「今日は女子だけだと思ってたからびっくりしたっていうか、それにダンくんってディックくんの友達っぽくないっていうか。」


「あいつ、」

イマリと並んで波を見ている彼を指さす。

「クラスでやたら俺に絡んでくるんだよ。臨海学校でゲームに負けて、今日はその罰ゲーム。」

「一緒に行くのが『罰ゲーム』なの?」

「ゴメン、言い方悪かった。」

ディックが頭をかく。

「これから行く島で、生徒会が合宿してる。」


今週からエリオスとの組合ギルド通いがなくなったのは、彼が生徒会の合宿に参加するからだ。

5つの魔法学園生徒会が合同で行う強化合宿。

去年の夏、わたしがエリオスの部屋に泊まることになって、エリオスがわたしの初めての騎士になったあの出来事。


「あいつ、その合宿に顔を出したいって。で、俺からランス先輩に紹介しろって。」

「えっと、どうして?」

「生徒会に入りたいんだろ。」


生徒会選挙は11月に行われるけど、現役役員の意向がかなり影響する。

今年の生徒会長はベリアル、そしてディックはベリアルとかなり仲がいい。


「ひとつあいつの言うこときく約束だったからさ‥。」

ディックは心底面倒そうに深いため息をつく。

「何のゲームに負けたの?」

魔法勝負でディックが同級生に負けるとか想像できない。


「‥牛乳のイッキ飲み。」

「は?」


中学生かと突っ込みたくなって、思わず笑ってしまった。

「まあ、あんたも一緒ならいいか。」

ディックがはにかんだ笑顔をむける。


「カップルの中でぼっちだろ、今日は俺が付き合ってやるよ。」


ぽん、とわたしの頭に手をのせて。


青い空を背景にヒロインを見下ろすディックの、ちょっと日焼けして大人びた笑顔のスチル。


1年前とはずいぶん背が伸びて、男の人になっていく。

それでも瑞々しさを失わない澄んだ瞳に、わたしは吸い込まれるように見とれてしまった。


「よろしくね、ディックくん‥。」

「前も言ったけど、ディックって呼べよ。」


ディックに見とれてしまって。


それが触れたような、触れなかったような。


ー『騎士の宣誓』受諾保留を解除し、ディック・メイビス・ブレイカーを『聖女の騎士』と認定しますー


誰かの声が、わたしたちの頭に響いた。


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