2年生8月:子爵家
アリス・エアル・マーカー(レベル30)
称号:聖女(中級)
HP:2,990
MP:9,999
魔法攻撃力:2,560
魔法防御力:3,410
魔法属性:聖
修得魔法:
『復活』(MP消費5,000)、
『聖域』(MP消費2,000/100m3/10分)、
『聖刻印』(MP消費2,000~)、
『蘇生』(MP消費500)、
『修復』(MP消費300~)、
『慈愛』(MP消費100)、
『回復』(MP消費50)、
『治癒』(MP消費10)
武闘技:『聖拳突(MP消費10~)』
装備:聖女の護印、聖女の刻印、節約の腕輪、耐魔の魔法衣、ショートブーツ
所持品:MPポーション(銀)×3、絶対零度×1
使徒:クララ(クラーケン)
騎士:エリオス・J・ウォール、フレッド・ファン・ウッド
「ふっふっふっふっふっ。」
夏休み3週目、夕食後にわたしは父の部屋に籠り、机に頬杖をついてひとりでにやけていた。
星が1つ刻まれた組合のプレート。
夏休みが始まってから2週間ずっと組合の依頼を受けて、エリオスと魔物退治を繰り返した結果。
「レベル30達成~。」
ダリア魔法学園高等部に入学して1年と5ヶ月。
レベル1からのスタートでよく頑張ったねと自分で褒めてあげる。
クララを召喚できる指輪は無くなってしまったけど、使徒から消えていないので海でなら召喚できるっぽい。
それに父の魔法衣の魔法防御力が高くて、そのおかげでかなり数値が上がった。
この調子で頑張ったら、目標のレベル50までいけるかもしれない。
エリオスが今週から忙しく、わたしも他の予定があるので、組合通いは中断して夏休みのレベル上げはここまで。
夏休みに入るとすぐ、わたしは王都の子爵邸に戻った。
子爵邸からが組合に近いし、それに父のことをもっと知りたかった。
ジャスパー・イオス・マーカー、享年25歳。
王国魔術師団最年少団長、四大魔法使徒。
16年前の『聖戦』で魔王を封印した英雄で、海皇の友人。
「怖かったな‥。」
オアシスで龍の姿になった海皇。
ヒトの姿のときはとても美しくて、わたしにいつも優しかったから。
父と海皇さまに何があったんだろう。
父の部屋の書棚や机の中を全部調べたけれど、日記のようなものは何もなかった。
この机の右下の引き出しだけ鍵がかかっていて、開けるかどうかまだ迷っている。
(エリオスに頼めば開けてくれそうだけど‥。)
父は中等部まで領地で過ごし、ローズ魔法学園高等部進学時に王都のこの屋敷に移った。
卒業して王国魔術師団に入った後もしばらくこの屋敷に住み続け、団長就任時に魔術師団の宿舎に入っている。
だからこの部屋に父が居たのは5年くらい。
淡いベージュでまとめられた、シンプルなインテリア。
クローゼットに残った服は制服や魔法衣だけで、父の趣味が感じられない。
(どういう人だったの?)
屋敷の使用人も当時から残っているのは執事さんだけで、彼曰く、父と祖父はほぼ絶縁状態だったと。
『お二人とも、よく似たお優しい方なのですが。』
執事さんは優しく微笑んだ。
『旦那様もジャス様も不器用なお方で‥お互いに歩み寄ることが難しかったのでしょう。』
祖母は父を産んで1年くらいで亡くなっている。
もともと身体が弱かったそうだけど、リビングにはとても幸せそうに笑う、まだ若い祖父母の結婚写真が飾られている。
どこか冷めたすきま風が吹くマーカー子爵家。
祖父は仕事が忙しいのか、毎日帰宅が遅い。
わたしは薄いブルーの便箋セットを机に広げた。
祖父の領地で暮らしている母に手紙を書く。
たくさん伝えたいことがあるけど、今日の手紙は短くてすむ。
『ママへ 来週、会いに行きます!』
祖父がようやく領地の本宅に帰ることを許してくれた。
来週から夏休みが終わるまでの10日間を母と過ごすことができる。
病に倒れる前の母は、よくしゃべる賑やかな人だった。
母娘二人きりの生活を寂しいと感じたことはない。
狭い家で貧しかったけど、楽しかった。
だから原因不明の病気で母がどんどん衰弱していくのがとても怖かった。
わたしの魔力封印の影響で母が蝕まれていたなんて。
前世の記憶と魔力を取り戻してから、わたしの周りは全てが変わってしまった。
フォッグ・アイランドの小さな農村の、やせっぽっちの貧しい娘アリス・トーノ。
わたしは子爵令嬢アリス・エアル・マーカー。
莫大な魔力を持ち、魔王を倒す『聖女』。
『ダリア魔法学園』で出会った彼らの誰かを攻略し、共に魔王に立ち向かわなければならない。
3年生、ベリアル・イド・ランス。
同級生、エリオス・J・ウォール。
1年生、ディック・メイビス・ブレイカー。
副担任、フレッド・ファン・ウッド。
ストーリーは3分の2を過ぎたところ。
夏は誰もが盛り上がる恋の季節。
(わかってる‥。)
明日はイマリたちと海に遊びに行く約束になっている。
8月の恋愛イベント『サマー・ビーチ』。
好感度による分岐シナリオが多くて何が起こるか予想がつかないけど、大切なイベントだ。
大丈夫、わたしはちゃんと前に進めてる。
だからこれが終わったら、最後に1度だけ。
わたしは母への手紙に封をした。