2年生7月:手紙
『アリスちゃんへ
修学旅行は楽しかったですか?
中学の時は参加させてあげられなくてごめんなさい。
あの頃はアリスちゃんに頼ってばかりだったわね。
マーカー子爵様のおかげで、もうすっかり元気になりました。
今月から近所の教会でお手伝いを始めたのよ。
これから頑張っていくから、応援してね。
ママより』
「だって。ノワールはどう思う?」
すっかり大きくなってしまった黒犬は、放課後にベンチで手紙を読むわたしの足元で丸くなっている。
夏毛になってももふもふで、なかなか暑苦しい姿だ。
「ふふ‥。」
文字を覚えた母から、定期的に手紙がくるようになった。
母の住む子爵領は王都からそこそこ遠くて、冬にフォッグ・アイランドで会ってから半年が経っている。
(前に会ったときも1年以上ぶりだったし。)
2年前の夏、一時は命も危なかった母。
元気なときはすごく働いていたから、またてきぱきと動き回っているのかもしれない。
「わたしも頑張ろう。」
スカートのポケットには、日曜日に『組合』で登録したタグプレートが入っている。
小さな金色の金属片には登録番号が刻まれているだけ。
レベルが30になると星がひとつ、35になるともうひとつ、プレートに刻まれるそう。
登録に付き添ってくれたエリオスのタグプレートは、星が3つ刻まれていた。
つまり、エリオスはレベル40以上。
わたしはまだレベル26、目標の50以上にはまだ半分。
次の週末、『組合』で依頼を探す予定だ。
当然、エリオスと一緒に行くことになっている。
(ちょっと外堀を埋められてる感があるけど。)
エリオスはまるで恋人のように祖父に挨拶をしていた。
前に彼から交際を申し込まれたけど、わたしは強制発動した『消去』で記憶がなくなったのをいいことに、告白自体をスルーしてなかったことにした。
(最低だよね‥。)
それでも今はまだ、もう少し時間がほしい。
『聖女』として誰かを選んだり、選ばれたり。
その前に、わたしはどうしてもしたいことがある。
「ノワール、またわたしの話を聞いてくれる?」
書き終わった手紙に封をする。
もう一度ノワールのもふもふを堪能してから、わたしは学内のポストに向かった。
『ママへ
修学旅行でパパのことを知りました。
凄い魔術師でびっくりしちゃった。
王都でたまにパパに似てると言われるけど、そうなのかな。
夏休みにお土産持って帰るので、楽しみに待っててね。
それから新しいお仕事、あまり頑張りすぎちゃダメだからね。
わたしも『組合』に登録したので、魔術師の仕事にチャレンジします。
わたしが魔術師になるなんて予想外だったけど、これからも応援してね!
追伸
前の手紙に書いたパパの簪は王都にあるみたいでした。
でもお友達に返すの難しいかも。
おじいさまに相談してみます。ーアリス』