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2年生6月:修学旅行(7)

「マーカーくん、結晶石作れなかったって~?」

「‥そうですけど。」


いつもどおり陽気なハンス先生の笑顔に、ついイラッとした答えになる。

「こんなに全身から溢れてるのに、左手に魔力通ってないなんてね~。」

部屋の隅に座ってみんなを見学していたわたしの隣に椅子を置いて座ると、おもむろに左手を触り始める。


「うーん、わからないなぁ。全体が強すぎて左手も光ってるように見えちゃうんだよね~。」

ハンス先生の指が薬指の付け根を探る。

「これが原因なのかな‥まあ普通に魔法使えてるし、問題ないか。」

「問題ないんですか?」

「これまで問題起きてないし。でもまぁ、」

ハンス先生の手が離れる。

「困ったら相談して。一応、A組の担当任されるくらいの実力あるからさ。」


ハンス先生ってたまにこういうこと言うけど、どれくらい強いんだろう。

普段は軽いけど、妙に怖いときもあるし。


「ハンス先生はレベルおいくつなんですか?」

「んー、まあマーカーくんの倍はあるかな。」

それってレベル50超えってこと?

「それなら先生は魔人に勝てますか?」

「勝てるよ。」

なんでもないことのようにあっさり言う。

「でも周りも壊滅しちゃうから、聖都みたいな感じになるかな。」


明日観光する『聖都』は、魔王軍との戦いで砂塵と化した街だ。

魔王の恐ろしさと、それを討伐した王国軍の偉大さを示す遺跡として保存されている。


「じゃあ魔王には?」

ははは、とハンス先生が乾いた笑い声をあげる。

「あれは無理。」

ハンス先生がわたしの耳元に顔を寄せて囁いた。

「僕ね、子供のとき魔王に遭ってるんだよ。」


聖都から北西の、母親と住んでいた中核都市が魔法軍の侵攻を受けたのは10歳の誕生日の少し前。

夜に大勢の人が避難する街道を、人を食い散らしながら魔王軍が進軍した。

魔物の群れの後に、強力な魔人を従えた魔王が続く。

禍々しい魔力に触れた人間は狂ったように周りを破壊し始めて、誰が敵かもうわからない、混沌とした空間。


「僕を路地に突き飛ばした母は、目の前で魔王に引き裂かれたよ。」

子供の目に映るその光景の恐ろしさに身がすくむ。

「もうなにか、全然違うんだよ。殺すとかそんな意志があるわけじゃなくて、進むのに邪魔だからバラしただけ。」

「すみません‥。」

「僕が勝手にしゃべったんだから。」

ハンス先生はうつむいたわたしの頭に手をのせる。

「つまり、そんな魔王を封じたマーカーくんのお父さんは、ホントに凄い魔術師だってこと。」


魔王を封じた英雄、ジャスパー・イオス・マーカー魔術師団長。

その名前は聖戦から16年を過ぎても色褪せない。


「それがマーカーくんの負担になるかもしれないけど、きついときは頼ってくれると嬉しいかな。」

君、人に頼るの苦手そうだしね。

そう言うと、ハンス先生はアクセサリーを作っているみんなのテーブルに戻っていった。


ひとつ出来上がった人はもうひとつ結晶石を作ってよかったようで、リリカはブレスレットを2つ仕上げていた。

みんなに慰められながら夕飯とお風呂を済ませて、リリカは彼氏と散歩してくるとかで、3人でコテージに転がる。

わたしはベッドにうつ伏せで身体を沈める。


(‥今日は上手くいかなかったなぁ‥。)


アクセサリー作りに失敗したので、攻略キャラへのプレゼントイベントも流れてしまった。

修学旅行なのに恋愛イベントをこなせないとか、ヒロイン失格な気がする‥。


本当は今夜、ベリアルとのデートイベントが残っているけど。

‥ベリアルを誘うことができなかった。

復活したセドリック王子と並んで夕飯を食べているベリアルを遠目に見ながら、わたしはイマリたちとの会話に合わせてすごした。


(これ以上、彼を巻き込むのは‥。)


ベリアルはヒロインのクラスメイトで、イベントチャンスが多く設定されているメイン攻略キャラ。

前世では一番最初にクリアしていた。


「‥わたしも散歩してくるわ。」

「ええっ、一人で?」

「うん、大丈夫。ちょっと考えたいことがあるから。」


わたしはひとりコテージを出て、星明かりの中をふらっと足を進めた。


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