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2年生6月:修学旅行(6)

コテージにシャワーはついていないので、固く絞ったタオルで身体を拭う。

予備の下着と乾いた制服に着替え、赤のリボンタイをきゅっと結ぶ。

大丈夫、もう血の臭いは消えた。

洗面台の鏡に写った顔。


(ー笑え。)


大会トーナメントは一度負けるとそこで終わり。

全国大会前はメンタルトレーニングを叩き込まれた。

性格やメンタルの強弱と関係ない、心を切り替えて集中するための訓練。


鏡の中の『アリス・エアル・マーカー子爵令嬢』が優雅に微笑む。


コテージを出ると、扉の外でベリアルが待っていてくれた。

「お昼ご飯食べられなかったけど大丈夫か?」

「ベリアルもでしょう?」

これから午後のイベント、全生徒が参加する『魔力結晶化体験講座』に向かう。

「面倒にまきこんですみません。」

わたしが着替えている間に、ベリアルはイマリたちに遅れると伝てえてくれていた。

その後もわたしが1人にならないよう、つきあってくれている。


「あのさ、面倒なんて思ってないから。」

ベリアルはわたしのスピードに合わせて、隣を歩いてくれた。


これから参加する講座は修学旅行の恋愛イベントだ。

魔力はオーラのようにふわっと見えても、形になって残ることはない。

ただしここ神山では魔力を結晶化することが可能で、天然石のように結晶でアクセサリーを作ることができる。

自分の魔力の結晶を相手にプレゼントするのは、魔術師の世界でよくある好意の形。

さあ、わたしは誰にアクセサリーを贈る?


「「遅れてすみません。」」

部屋では各クラスごとに分かれて作業が始まっていた。

A組を見るとセドリック王子がいない。

「アリス。」

小さな声でリリカが呼んでくれたので、クラスに合流する。

「ねえ、セドリック王子はいないの?」

「王子は結晶化ができないから不参加と聞いているわよ。」

と、ちょうどイマリが結晶化にチャレンジするところだった。


みんなが取り囲むテーブルに置かれているのは、少し大きなガラスの鉢が4つ。

鉢には色とりどりの水晶が沈められ、口のあたりまで透明な水で満たされている。

そのうちの一つに、そっとイマリが両手を入れる。


「一番好きな魔法を唱えてください。」


「『風華エアロ・ブロッサム』」

イマリが魔法を唱えると、両手の間にぽわっと泡が生まれた。

それがぎゅっぎゅっと小さくなっていき、1センチくらいの緑がかった石が出来上がった。

淡い、まるで翡翠のような結晶。

「キレイ‥。」

イマリはそれを光に透かして、嬉しそうな笑顔をみせた。


結晶化した魔力は、『魔力』として使用することができない観賞用だ。

このあと、革ひもやパーツを使ってアクセサリーを作るまでが体験講座になっている。

スーザンは鮮やかなオレンジ色、リリカは深い藍色の結晶ができた。


昨夜盛り上がった恋ばなの中で、みんな彼氏にプレゼントすると言っていた。

イマリは付き合って3ヶ月になる年下の彼と次のステップにいきたくて、どうやって彼を誘ったらいいかリリカに相談して。

スーザンは『初めては海沿いのホテルだったんですぅ』と想い出を語り始めて。

リリカの『どうでもいいけど避妊はちゃんとするのよ』、『寮の彼の部屋なら防音魔法もかけたほうがいいわ』とやたら具体的なアドバイスにわたしは赤面するばかり。


‥前世も現世も、未経験ですみません‥。


というかリリカがクラスメイトのタッド・ジャスティとのお付き合いを珍しく惚気て、普段そんな雰囲気をみせないからちょっと驚いた。

『交換するの』とリリカが嬉しそうだったので、ついタッドの結晶もチェックしてしまう。


(いいなぁ。)

好きな人へのプレゼントも、好きな人からのプレゼントも。

わたしなんて好感度上げイベントだから。


わたしの番がきたので、両手の指輪を外してから鉢に両手を沈める。

(一番好きな魔法は‥。)


「『聖域サンクチュアリ』。」


ぼこっと両手の間に大きな泡が浮かんだ。

それがぎゅぎゅぎゅっと小さくーならず、泡はそのまま水から浮かび上がってわたしを囲むように『聖域サンクチュアリ』が発動した。


「ええっ?!」


わたしはすぐに魔法を解除した。

すぐ講師の先生が声をかけてくれる。

「レベル3までの魔法を唱えてください。それと、両手から同じ量の魔力が出るように意識してみましょう。」

結晶化できるのはレベル3魔法まで、と最初に注意があったみたい。

気を取り直して、『慈愛ヒール』を唱える。

「‥‥‥‥。」

また泡は鉢の中で弾けてしまった。


「おかしいですね。」

講師の先生はわたしの両手を見比べて、左手の薬指を指した。

「この付け根の黒い線は?」


左手の薬指には真っ黒になった『破邪の指輪』が残っている。

前世の記憶の封印を解いた指輪はあまりの反動に焼き付いてしまって、黒いタトゥーのようになってしまった。


「ちょっと測ってみましょうか。」

片手ずつのせてくださいと水晶玉を差し出されたので、右手、左手とのせてみると。


「貴女、左手から魔力が出ていませんよ?」


そして結局、わたしは魔力の結晶化ができなかった。


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