表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
160/339

2年生6月:修学旅行(5)

「あっの、サド王子ー!!!」

わたしの八つ当たりの正拳で、ちょっと大きめの岩が砕けた。

建物からちょっと離れたところに流れていた細い川。

気持ちを鎮めようと降りてみたけれどダメだ、怒りが止まらない。


なんなの、あの態度?!

自分を護ってくれている人を斬りつけてケガさせて。

それで『わたしのため』って、冗談じゃない!


なにより怖いのは、彼らを傷つけることに心底なにも感じていなかったこと。

一欠片も悪いと思っていない目だった。


「最低‥。」


この世界に脈々と流れる身分制度。

身分が高い者は低い者になにをしても構わない。

そんな風潮がとくに高位の身分の人たちにあり、筆頭の王家があんなにも傲慢だとは。

身分を盾に、ファンさんも言いなりにして。


「セドリックのバカ!!!」


「ああ、バカだよな。」

幼稚な悪口に返事が返ってきて、わたしは声がした方を振り向いた。

「悪い奴じゃないけど、本気でバカな奴なんだよ。」


わたしの側までベリアルが降りてきて、岩の残骸に口笛を吹いた。

「相変わらずアリスの拳は凄いな。」

「なんのことでしょう?」

とぼけたわたしの血塗れの制服にベリアルが眉をひそめる。

「またセドリックになにかされたのか?!」


「彼が自分の護衛官に斬りかかったのよ!」

今思い出してもムカムカする。

「一番若い人なんて、全身に赤い傷が残っててー。」

そこでふと気づいた。

「ベリアル、あなた火属性魔法の講義は?」


「‥人数多くてさ、俺の番が終わったから抜けてきたんだ。」


「ベリアルがサボるなんて意外ですね。」

「俺のことはいいよ。それよりアリスの制服をどうにかしないと。」

わたしの服は胸元からスカートまで、斬られた彼の血で真っ赤に染まっていた。

「‥ブラウスはあるけど、スカートの替えはありません。」

「わかった。とりあえずコテージに戻ろうか。」


イマリたちのいないコテージの鍵を開けると、遠慮しながらベリアルも中へ入る。

「ブラウスもスカートも一度洗ってしまおう。」

「えっ、でも乾かす時間が。」

「大丈夫、俺が魔法で乾かすから。」

「ああ、そうね。」

これまでもベリアルに乾かしてもらったことがあった。

「じゃあ。」

とベリアルが片手を出す。

「スカート脱いで。」


わたしは反射的にベリアルを外に蹴りとばしていた。


「悪い、俺が無神経だった。」

「本当に反省してくださいね!」

ジャージに着替えてからベリアルを中に招き入れ、コテージに設置された小さな流し台に並んで制服を水洗いしている。

魔法効果を付与された制服は、軽く洗うだけで血が浮き上がり綺麗になっていく。

時間の都合で、ベリアルにもブラウスをお願いした。


「セドリックのこと、ゴメンな。」

水の音が響く中、ポツリとベリアルがそう言った。

「悪い奴じゃないんだ。」

「ベリアルが謝ることではないです。」

わたしはスカートを洗う手に力を込める。

「‥とはいえ、セドリック王子の行動は不思議です。」

彼に殺されそうになった理由がわからないのと。

「あれから教室で、なにも態度が変わらない‥。」


たださっきの出来事で、その理由がわかった気がした。

湖で刺されたときに殺気を感じなかった訳は。


セドリック王子は、わたしを殺すことをなんとも思っていない。


だから殺し損ねたことについても、なんとも思っていない。


「どうして彼は、わたしを刺したのでしょうか。」


それもたいして意味のないことなのかもしれない。

ちょっと水の中で剣の試し切りがしたかったくらいの。


「できるだけセドリックと2人きりにならないでほしい。」

白濁湖ミルキー・レイク』事件の後、ベリアルは積極的にセドリックをかまって、彼と一緒に行動してくれている。

「ああ‥。」

わたしはようやく思いあたった。


「ひょっとして、今日もわたしのことを心配してきてくれたんですか。」


彼の火属性魔法の会場は、わたしの聖属性魔法の会場とかなり離れていたはずだ。


「よしっ!」

ベリアルがパンッと洗ったブラウスを広げた。

「『乾燥ドライ』。」

魔法をかけるともわっと水蒸気が広がり、パリッと乾いた白いブラウスができあがる。


「ほら、早く乾かして修学旅行の続きを楽しもう。」

わたしの問いに答えず、ベリアルはいつもの笑顔で手を差しのべた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ