2年生6月:修学旅行(1)
ママへ
お元気ですか?
この前、お友達のお誕生日会にお呼ばれしました。
お友達の彼氏さんがとても優しい、ステキな人でした。
今度、パパとママの思い出を聞かせてくださいね。
今週は修学旅行に行ってきます。
お土産、楽しみにしていてね!
(追伸)
パパのお友達が預けた簪を返してほしいそうです。
櫛や簪をパパに見せてもらったことはありませんか?
今日から2泊3日の修学旅行!
「クラス全員で参加できてよかったねー。」
朝早く寮の前に集合して、ハンス先生の点呼を受ける。
「移動は2台に分かれるからねー。で、旅行の間はサポートの先生が各クラス1人ずつくから。A組のサポ先はー、」
(ん?)
「教務部のファンだ。」
ファンさんが修学旅行に同行する?
「あの先生見たことないけど、アリスは知ってる?」
「え? ええ、委員会でお世話になってるわ。」
「あ、あー、そうね、緑化委員会で会ったけど‥先生だった?」
委員会活動を思い出して、イマリは首を傾げる。
「いいじゃないの。ほら、わたしたちも早く乗りましょ。」
スーザンとイマリは1台目の幌馬車に、リリカとわたしはファンさんが引率でつく2台目に乗り込んだ。
御者が鞭を鳴らし、馬車が進みだす。
大勢で荷台に乗るのって変な感じ。
6月イベント『修学旅行』
初日と2日目は『神山』で魔力修行を受け、3日目は『聖都』を見学する行程だ。
修学旅行の同行キャラはベリアルだけだから、2日目の夜にベリアルとのデートイベントが発生する。
他のキャラとの好感度を狙うなら、ベリアルとのデートを不成立にして、2日目昼に作る魔道具を修学旅行のお土産にプレゼントすること。
(ファンルートはどうなるの?)
これ、ちゃんとフラグ立つのかな?!
『神山』はその頂きに魔力の源泉があり、山全体が濃厚な魔力に覆われている特殊な山だ。
山の中腹に宿泊施設や修行設備が整えられていて、わたしたちは予定どおり昼前に到着した。
「一度コテージに荷物を置いて、ジャージに着替えて集合してね~。」
いくつものコテージや大きめの木造の建物がちらほらあって、大型のキャンプ場みたいな雰囲気だ。
わたしたちは女子4人でひとつのコテージを割り振られた。
「着いてすぐ登山って‥。」
リリカがぶつぶつ言いながらもさっさとジャージに着替える。
「『源泉』に触ると魔力が増えるってほんとでしょうか~。」
スーザンは今日の源泉登山をとても楽しみにしていた。
「MP、どのくらい増えますかね~。」
「ちょっとスーザン、また胸が大きくなってない?」
「もー、イマリさんさわらないでくださいよぉ。」
スレンダーなイマリは、最近スーザンの立派な胸が気になるみたい。
「イマリはすごくスタイルいいじゃないの。」
「‥アリスもわたしより大きい‥。」
「もー、ほらさっさと出るわよ!」
こうしてリリカに急かされるのが、わたしたちのいつものパターン。
登山はE組からのスタートで、わたしたちA組は最後の出発だった。
1時間も登れば着くそうで、頂上でお弁当を食べることになっている。
「アリスは元気ねぇ‥。」
わたしたち4人の中でリリカが一番体力がない。
わりと急傾斜な山道を延々と登っているうちに、リリカの足が上がらなくなってきた。
「ほらリリカ、リュック貸して。」
「ーありがとう、アリス。」
リリカは少し躊躇したけれど、わたしにリュックを渡した。
「ポーション持ってくればよかったわ‥。」
「もう半分過ぎてるからね、頑張ろ!」
「大丈夫ですよぉ、ゆっくり行きましょう。」
「そうそう、気にしない気にしない。」
4人でA組の一番最後を、というか前の人達からもずいぶん遅れて進む。
最近は4人で揃うことが少なかったから、みんなでおしゃべりしながら歩くのも楽しいよね。
「ー悪いが、少しペースを上げてくれ。」
んん?
「全体のスケジュールに影響が出る。」
ファンさんがわたしたちのすぐ後ろについていた。
ジャージのファンさんって初めて見る。
普通の無地の白Tシャツなのに、鍛えられた筋肉がかっこよくて見とれてしまう。
「アリス。」
「は、はい!」
ファンさんに名前を呼ばれて、声が跳ねてしまった。
「彼女に回復魔法をかけたら?」
「え‥だって、いいんですか?」
「いいとは?」
「登山って、自力でやりとげるべきでしょう。」
ファンさんは腕を組んだまま、首をかしげた。
「何を言っている?」
「だって、魔法で回復ってズルくないですか?」
「‥それがお前の考えか?」
長い前髪の隙間から、珍しいアメジスト色の瞳がわたしに問いかける。
「魔法学園の生徒が魔法を否定するのか?」
(否定する?)
きょとんとしてしまったわたしに、ファンさんがため息をつく。
「この登山の目的をはき違えるな。」
「目的?」
「お前は視野が狭い。もっと周りをみろ。」
「‥‥‥。」
「ねえアリス。」
見かねたリリカが助け船を出してくれた。
「わたしに回復魔法、かけてくれない?」
「ええ‥。」
『回復』を唱えて、リリカのHPを回復する。
「ありがとう。あまりみんなを待たせるのも悪いし、ぱぱっと登りましょう。」
リリカはわたしの肩から自分のリュックを取って。
「ーごめんなさい。」
イマリたちに聞こえないように、わたしの耳元に囁いた。
リリカに謝らせてしまったことが、悔しかった。