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2年生6月:傷痕

「そんな慌てないでいいよ。」

パニクるわたしより先にベリアルが水道をとめてくれる。

「ごめんなさいっ!」

「ちょっと濡れたくらいだから平気。」

ベリアルは髪から滴る水をハンカチでぬぐう。

「俺よりアリスのほうがー、」


ーん?


濡れた胸元を見ると、ブラウスがぴったりと肌に張りついてブラジャーが透けてしまっている。

「!!!」

とっさに胸元を隠そうとしたわたしの右腕をベリアルが掴んだ。


「その傷なに。」


濡れた白いブラウスに、左胸に刻まれた赤い傷痕が浮かび上がっていた。


「やめて!」

ベリアルがブラウスのボタンを外し、わたしの胸元を大きく広げた。

左手でひっぱたこうとしたらその手も塞がれる。

「やめてってば! 何考えてるの!!」

ブラジャーの中まで続く、赤く縦に残された傷痕が暴かれる。


「ベリアル!!!」


「あ、ごめんっ。」

わたしの大声にベリアルはパッと腕を放し、顔を胸元から背けた。

「ちょっと頭に血が昇った‥。」

今度は反対にわたしを見ないようにしたまま、ベリアルが魔法を使う。

「『乾燥ドライ』。」

ほわっとわたしの周りに蒸気が立ち上ぼり、濡れた制服が一瞬で乾いてしまった。

(どうしよう‥。)

わたしはゆっくり呼吸をしながら胸元のボタンをとめる。

白濁湖ミルキー・レイクでセドリックに殺されかけたことは、まだ誰にも話せていない。

治療をしてくれた海皇様にも話せなかった。


「ーその傷、セドリックの仕業だな。」


「どうして?」

「あいつの剣で斬られるとそんなふうに赤く傷痕が残る。治癒魔法で治らなかったんだろ?」

「‥ええ、そうよ。」

修復リペア』をかけても、傷痕は赤く色鮮やかなまま消えなかった。

「王族だけが使う、呪いの武器なんだ。」

「呪い?」

「王家にたてついた者、っていう烙印を残す剣。王族はみんなそういう特別な武器を持ってる。」

つまり消えない赤い傷痕は、王家に背いた罪人の証。


「あいつ、アリスを傷つけるなんて許せない‥!」


「待って、ねえベリアル。」

セドリック王子にいきなり刺されるような理由は思いあたらないけど。

「騒ぎになりたくないの。それに‥。」

彼はこの国の正統な第2王子で、子爵家庶子のわたしよりずっと身分が高い。

そんな未来のある王子が、理由もなく人を斬りつけるなんて。


「‥ベリアルは、わたしが王子になにかしたから斬られたんだって、そう思わないの?」


「ー何言ってるんだよ。」

ベリアルは即答した。

「アリスがそんなことするわけないだろ。」


身分の低い、貧しい者は一番最初に疑われる。

母と2人きりで村で貧しく暮らしていたとき、近所で物がなくなるとヒソヒソと囁かれた。

人のいい母は、嘘をつかれたり、相手の非を押し付けられたり。

母が娼婦だという噂を信じた地主がわたしを強引に触ろうとして、抵抗すると『お前から誘ったくせに』と怒鳴られたり。

いろいろな理不尽が日常茶飯事だった。


(王子とわたしの言うことをなら、きっとみんな王子を信じる。)


「‥どうして貴方はわたしを信じてくれるの?」


ベリアルはしばらくわたしの目を見つめてから言った。


「アリスは、フェアであることをとても大事にしているだろう?」


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