1年生5月:模擬戦(2)
5班のベリアルたちが座席に上がってくると、みんなの歓声が上がった。
「すごかったな、圧勝かー。」
「中等部で出てたオークより随分大きかったよな?」
「高等部仕様なのか、先生の魔力のせいか…。」
「ちょっとパワー負けしそうだな。作戦練り直すか。」
4人はざわつくクラスメイトたちの後ろの列に並んで座る。
「今日の感じは良かったな。」
「ケインがオーク丸ごと落としてくれたのは助かった。」
「タイミング合ってほっとしたよ。あのサイズはちょっと無理目だったから。」
「オッジとベルの連携パターン増やしたいよな。」
ベリアルがノートを広げてメモをとっていく。
「ていうかオッジ、『氷結槍』自分がやりたかっただけだろ。」
「ベルだって使えるようになったらみんなに見せたいだろ。」
「うん、まあそうだよな。他の班の作戦でいいやつはどんどん取り込もうぜ。」
「さあ、第2戦は第1班、キャサリン・アーチャー単独で勝負だー!」
グラウンドには2班4人が降りているが、魔法陣の前にはキャサリンが一人で立っている。
あとの3人はグラウンドの入り口付近に待機していた。
「本当に一人でやるのか?」
「5班はさくっと勝ったし、なんとかなるんじゃない?」
「キャサリンはローズ魔法学園のトップだったろ?」
「ベルとキャサリン、これでどっちが上か決まるな。」
クラスメイトたちは不安半分、期待半分、といった感じ。
「第1班、準備いいかいー?」
ハンス先生はいつもと同じように陽気に問いかける。
キャサリンも班のメンバーも緊張した表情で、どこか迷っているようにも見える。
「準備、いいか~い?」
返事はない。
「アーチャーくん。」
ハンス先生の声音が変わる。
「授業放棄、ということでいいのかな?」
「いえ、その‥‥。」
キャサリンの声が小さく震えている。
「第1班、全員減点でいいね?」
「それはっ…。」
待機していたうちの一人、レナード・ダイス・オマールが声を上げる。
「僕たちも減点なんて、納得できません!」
「どうして?」
「だってこれは、キャサリンが…。」
「そうだね、アーチャーくんの我儘のせいだ。」
「だったら!」
「君たちは彼女から買収されてこの案を呑んだ、と僕はみなす。」
「ここは王国最高峰『ダリア魔法学園高等部』だ。誰もが優秀な魔術師になることを夢見てやってくる、そしてそのために必死に努力する、そんな場所だ。」
ハンス先生の声は冷たかった。
「アーチャーくんは自分一人のために、君たち3人が成長するチャンスを潰した。君たちはチャンスを奪われることに気づかず、抗わなかった。いかにアーチャーくんが我儘でも、それを聞き入れる義務は無いはずだ。」
キャサリンはうつむき、きつく唇を噛みしめている。涙がこぼれるのを我慢しているようだった。
クラスメイトたちも、中等部の生徒たちも、一人残らず黙り込んでいた。
「さ、模擬戦を始めようかー。勝てなくても減点にはならないしー、危なくなったら召喚解除するからねー。」
パンと手を叩くとハンス先生は急に調子を戻し、コンソールに手をかける。
「『召喚、レベルE』」
キャサリンの前の魔法陣が赤く輝く。
「キャサリン、離れて!」
リリカが叫んだけど、キャサリンは立ち尽くして動かない。
「馬鹿っ!」
レナードが駆け出し、キャサリンを魔法陣から引き離す。
「先生、止めてください!」
「ノービスくんはアーチャーくんをかばってばかりだねー。そーいうの、先生イライラするなー。」
「えっ…。」
なんだかハンス先生の毒がすごい。
「先生ね、かなり怒ってるんだよー。わかんないかなー?」
笑顔なのに氷点下に冷たい瞳に睨まれて、リリカが下がった。
「さあ1班のみんな、頑張ってねー!」
「「「うがあぁ!!!」」」
3体のオークの咆哮が響いた。