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2年生5月:捜索(2)

学園寮の部屋に戻って、そのままベッドに丸まっても眠ることができずに朝を迎えた。

土曜日で講義が無いのがありがたい。

朝食の時間が終わる頃になっても、ベリアルはベッドの上に座りこんだまま。

すると、コンコンと控えめなノックが響いた。


「‥はい。」

扉を細く開けると、そこに立っていたのは3年生のエリオス・J・ウォール元生徒会長だった。

「ああ、部屋にいましたね。」

扉の隙間に足を差し込み、閉められないようにする。

有無を言わせない圧のある笑顔。

「これから付き合ってください。」


15分後、制服に着替えたベリアルはエリオスの用意した馬車に乗せられていた。

中にはエリオスと2人だけ、向かい合って座っているが何を話したらいいのかわからない。


「『白濁湖ミルキー・レイク』に行きます。1時間半くらいでしたね。」

エリオスが水筒を差し出す。

「どうぞ。」

「‥ありがとうございます。」

「ちゃんと眠れましたか?」

「いえ、あまり‥。」

眠れていない、食べれていないベリアルは反応が悪い。


「非常時は体力がものをいいます。きつくても食べて眠らないと役にたちません。」

「‥すみません。」

「意外に弱いですね。」


(怒ってるのか。)

普段のエリオスでは見られない表情に、ベリアルは驚きを感じる。

エリオスはいつも、誰に対しても穏やかで礼儀正しい優等生だった。


「先輩が『白濁湖ミルキー・レイク』に行くのはアリスのためですか?」

「わかってるならさっさと昨日のことを話してください。」

ベリアルは昨日のことをひととおり話したあと、エリオスに尋ねた。

「俺を連れていく理由は何ですか。」

「彼女を最後に見たからです。」

「‥どうしてそれを先輩が知ってるんですか。」

そもそも昨日の事件は極秘にされている。

ベリアルとレナードは固く口止めされ、セドリック王子は王城に護衛と戻された。

他の関係者は学園に戻ってきていない。


「学園内の情報はほぼ押さえています。」

それがどうかしましたか、とベリアルを一瞥する。

「‥俺に、そんな素を晒していいんですか。」

「どうせ君にはなにもできない。」

エリオスの冷たい声がベリアルの胸に刺さった。


白濁湖ミルキー・レイク』では昨日に引き続き、学園関係者たちが湖の捜索をしていた。

指揮をとっているのはファンだ。

学園長は本部テントで捜索を見守っている。


「今回のことはなんと詫びたらいいか‥。」

「‥こういうことでお前に会いたくなかったな。」

「‥ああ、お前の言うとおりだ‥。」

学園長は立ち上がると、隣に座るマーカー子爵に深く頭を下げた。


「大事なお孫さんを死なせてしまい、本当に申し訳ありません。」


「‥アリスは、本当に死んだのか?」

「湖の中から魔力反応が拾えません。」

「あの子もそういうことがあったな。」

マーカー子爵は思い出すように目を閉じた。

「ジャスが2週間ほど行方不明になったことがあった‥聖都決戦の直前のことだ。」


16年前、魔王軍を倒すべく聖都を舞台に計画された大規模作戦。

その要であるジャスパー・イオス・マーカー魔術師団長が行方不明になって一時大騒ぎになった。

その直前に彼の魔力が不安定になっていたことがあり、魔族に暗殺されたか、自ら逃げ出したか、マーカー子爵邸にも調査が入った。


「ジャスが戻ってきたのは『ダリアの日』の翌日だった。」

魔術師団が総力をあげて捜索しても見つからなかった魔術師団長は、ふらりと王都に戻ってきた。

それから戦力を整え、王国が『聖戦』を開始したのは1月中旬のこと。


「私はアリスが生きていると思っている。」

「お孫さんは俺が強引にダリアに連れてきた。」

「私はお前だからアリスを預けた‥だから謝らないでくれ、友よ。」


マーカー子爵の言葉に学園長は頭を上げ、再び隣に座った。

「たくさんの人がアリスのために動いてくれて、心から感謝している。」

「大切な生徒だ‥当然のことだよ。」

「ジャスのときも、それはたくさんの人が探し回ってくれた。」

「どこにいたのかお前は知っていたのか?」

「知らなかったよ、ジャスは私に何も言わない子だ。」


公式に、魔術師団長は魔王を倒す魔道具精製のため特殊な結界の中に籠っていたと発表された。

そしてたしかに、魔術師団長の魔道具は魔王の魔核コアを真っ二つに割った。


「『封魔の杭』‥あれは今も再現できないでいるよ。」

「ダリアでもわからないのか?」

「ああ、似たものは創れたが魔王には通用しないな。魔族や魔人どまりだ。」

学園長は腰に差した短剣をマーカー子爵に見せる。

魔核コアの破壊に特化させた武器だが、流し込める魔力量が足りない。」

「魔王はもう封印されたのだから、魔族を倒せれば充分だろう?」

「‥そうだな。」

学園長は曖昧に返す。


「お前の言うとおりのはずなんだ‥。」


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