表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
146/339

2年生5月:失踪

魔人『悲哀サッド』は黙って上空へ消えていった。

ハンスの言うことをきいたのは意外だったが、ベリアルは魔人の退場に安堵する。

「あれが前に学園に出た魔人で間違いない?」

ハンスはあの騒動のときにいなかった。

思い出を再確認する必要もなく、ベリアルは即座に肯定する。

「はい、卒業式の日でした。」

「んー、とりあえず岸に降りて安全確認。」

ハンスはレナードたちのいる方を見て、眉をひそめる。

「セドリック王子とマーカーくんは‥ああ、あそこか。」


桟橋の近くで、水面の一部が金色に光っている。

聖域サンクチュアリ』の結界だ。

「何で潜ってるの‥すぐに引き戻して、」


そこで、初めてハンスの表情が変わる。

「構えろ!」


突如水面が大きく盛り上がり、大量の水が辺りに爆散した!


「なっ‥?!」

不意に水の弾丸を全身に浴びたベリアルは、『飛行フライ』を保てずに湖に墜落する。

飛び散る水の中をセドリック王子の身体が空を舞った。


「殿下?!」


ハンスはセドリック王子を受け止め、そのまま岸に降りた。

「先生、今の爆発は‥。」

「水中に何か大きな魔力反応があったけどもう消えた。」

レナードとファンの前にセドリック王子を横たえる。

「ファンくん、殿下をみてくれ。回復薬ポーションあるな?」

「ああ、わかった。」

セドリック王子は意識を失っているが、今すぐ死にそうな感じではない。

それより問題なのは。


「ハンス先生!」

桟橋にたどり着いたベリアルが叫ぶ。

「アリスの結界が消えた!」

沈んだ白い水の中で、キラキラと金色の破片が舞って消えていった。

さっきまであった結界が砕けたことの意味。


ベリアルは大きく息を吸ってまた湖に潜る。

(アリス‥!)

息の続く限り潜るが、水の中は視界が悪くてアリスを見つけられない。

水面に戻り、また潜ろうとしたところをハンスに襟首を捕まえられた。


「先生?」

「一度上がって。」

「アリスが‥、」

「上がりなさい。」


岸に連れ戻されたベリアルは地面にしゃがみこんだ。

急に身体に異常な重さを感じる。

「ランスくん、こっちの陰で休んで。」

「はい‥。」

立ち上がるが、頭がふらふらする。

ふらついた身体をレナードが支えてくれた。


岩にもたれかかるように座りこむ。

すぐそばにセドリック王子が仰向けに横たわっていた。

その胸元が血に染まっている。


「セドリック?!」

「落ち着け。」

ファンがベリアルに体力回復薬ポーションを渡す。

「王子の怪我はあいつらが治癒済みだ。」

目線の先には見慣れない男が3人、ハンスに詰めよっている。

「‥いったい、何がなんだか‥。」

「それは俺が聞きたい。」

ファンは乱暴にベリアルの襟元を掴んだ。

「お前、何をしていた!」

ベリアルは目をそらし歯をくいしばる。

「アリスはどうしたんだ!」


「まあまあファンくんも落ち着いて。」

「元はあんたが俺の仕事を!」

「想定外のときにヒトの価値がバレるんだよー。」

あいつらとかね、とハンスの指す先を見るとセドリック王子の護衛3人が地面に転がっている。

「うるさいから眠らせちゃったよ。僕は他にすることがあるのに。」


ハンスは湖の桟橋の先に立つと、両手を広げて空を見上げる。

「‥眩し‥。」

もう昼になろうとする時間だ。

たった2時間くらいの実習で。

(僕の邪魔をしたのは誰だ?)


「『魔力感知サーチ』。」

最大出力で広い湖の中全てを感知するが、アリスは引っ掛からない。

水爆と共にアリスの魔力が消えたから、これは想定内。

ハンスは別の魔法を発動させる。


「『魔力痕跡トレース』。」


かすかに残っている魔力残滓を感知する、ハンスの極秘魔法だ。

聖域サンクチュアリ』のあった付近で感知した魔力を、自分の中のデータと照合していく。

湖の中から拾える魔力は、アリス、セドリック、そしてあの爆発を起こした魔力と、それと混ざったセドリックの魔力。

(謎の魔力がセドリックに攻撃した‥?)

いや、この魔力は知っている。

この攻撃的な波動はー。


(魔人『憤怒アンガー』事件‥。)

ハンスは記憶を手繰り寄せる。

あの場所にいたヒトでない存在。


「アレか‥!」


キャサリン・アーチャーの腕を斬り落としたアリスの召喚獣。


(アリスがセドリックを攻撃した?)


「まだ生きているかが問題か‥。」


もし死んで湖に沈んでいるなら、『魔力感知』に引っ掛からない。

ハンスはベリアルたちの元に戻る。


「ファンくん、学園長に連絡して。」

「‥なんて。」

「討伐実習で事故発生、被害状況は‥。」

まだ意識を取り戻さないセドリックを見てから。


「アリス・エアル・マーカーが生死不明‥至急、『白濁湖ミルキー・レイク』の捜索を要請する。」


ダンッ、とベリアルが拳を地面に叩きつけた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ