2年生5月:討伐実習(1)
王国では『レベル25』が実力のひとつの目安だ。
ここをクリアすると一人前とみなされて、魔物討伐に参加できるようになる。
学園の討伐実習に参加できるし、『組合』に登録して個人で仕事を請け負うこともできる。
放課後、A組の実習参加予定者はハンス先生の部屋に集められた。
レナード・ダイス・オマール、ベリアル・イド・ランス、セドリック・アドラ・ディ・グラッド第2王子、そしてわたし、アリス・エアル・マーカー。
「初実習はこの4人のパーティーかー。自己紹介しとく?」
「それいりますか?」
「じゃあ細かい情報共有はあとでやっといてね~。」
ハンス先生がテーブルに地図を広げた。
「まずは日帰りできる難易度DかCまでのところって条件だから、まあこの3ヶ所かな。どれにする?」
・ウォーラ鉱山
・白濁湖
・青の洞窟
「ウォーラ鉱山は去年ランスくんたちが行ったとこね。難易度Dだから。」
どこも学園から馬車で1時間から1時間半でたどり着けるそうだ。
「俺は外のほうがいいな。『白濁湖』はどうですか?」
「俺も壁崩したりしそうだから、外がいいです。」
火系魔法のベリアルと土系魔法のレナードが言う。
「んー、難易度がC+あるからちょっときついかもよ?」
「俺がいるから問題ない。」
セドリック王子のセリフにハンス先生が苦笑する。
「マーカーくんは?」
「ええと、いけそうなら挑戦したいです。」
わたしはとにかくレベルを上げたい。
それには魔物討伐が一番効率的だし、難易度が高いほうが経験値も高い。
「んー、無理じゃないと思うけど。じゃあ『白濁湖』で申請するから、ちゃんと調べて準備しておいてねー。」
ハンス先生の部屋を出て、寮の談話室で打ち合わせをしようということになった。
セドリック王子が寮に入ってみたいと言い出したからだ。
「思ったより広いな。」
2年生棟の談話室はセルフでコーヒーや紅茶が飲めるようになっていて、持ち込みもOK。
なんとなくフードコートみたいな感じだ。
「セドリックは寮に入らないのか?」
「ここで寝泊まりするには、さすがに警護の問題がな。」
「寮生活も面白いけど、王子様だと無理か。」
「だが来月の修学旅行は楽しみにしているぞ。夜通し語り合うというのをやってみたいんだ。」
「それ、俺が付き合うのか‥。」
無邪気に言うセドリック王子にベリアルがこぼす。
「殿下もご参加されるのですか?」
「君はオマール伯爵の息子だったな。」
「レナード・ダイス・オマールです。」
「ベルと一緒に生徒会役員をしているんだろう。気軽にセドリックと呼んでくれ、レナード。」
「は、はい。ありがとうございます!」
それでは、とレナードが資料をテーブルに広げた。
『白濁湖』は死霊系魔物が溢れる自殺の名所らしい。
「死霊系なら俺の火系魔法が有効だな?」
「そうだね、ベルの魔法が有効だと思う。セドリック王子は聖銀の武器をお持ちですか?」
「セドリックでいいし、敬語もいらん。戦いのとき枷になる。」
「こいつ本気で言ってるから、レナードも普通にしてやってくれないか?」
少し不機嫌になったセドリック王子をベリアルがフォローする。
(王族にタメ口って、かなりハードル高いよね‥。)
王子が留学してきて1ヶ月、主にベリアルが相手をしているけれど、わたしも席が近いから会話に苦労している。
「わたしの聖属性魔法も効くかしら?」
「マーカーさんの結界魔法、頼りにしているよ。相手の数が多いのもあるし、時期によるけど大型の『死魂』が出ることもあるらしいから。」
「‥真面目なのは美徳だが、俺達は共に戦いに行くパーティーだ。固い態度は好かん。」
わたしとレナードの会話にもセドリック王子が不機嫌になるってどういうこと?
「だからセドリック、人にはそれぞれ自分のペースがあるんだよ。」
「アリス!」
「は、はい殿下!」
「セドリック!」
ベリアルが声を荒げた。
「俺達はパーティーだが、お前のパーティーじゃない。お前のは暴君の態度だぞ。」
「そうか?」
「そうだ。お前は王子だし、俺たちは貴族ー王家の臣下だ。」
「ベルは友人だろう。」
「俺はお前と2年付き合ってる。出会ったばかりのレナードたちに『友人であれ』と命じるのは対等な友人のすることか?」
「ーそうだな、俺が焦りすぎた。」
セドリック王子がわたしたちに謝った。
「俺は肩書で呼ばれることが多い。」
それがとても寂しいのだと。
「だから城の外では名前で呼びたいし、名前で呼ばれたい。」
「ーわかりました、セドリック。」
わたしはレナードに笑顔を向ける。
「親しくなるためにも、わたしたちお互いを名前を呼ぶことにしませんか? ね、レナード。」
「ああ、その方がいいなら‥よろしく、セドリック。」
「ありがとう、レナード、アリス。」
パッとセドリック王子が笑顔になる。
「‥俺だけだったのにな。」
「さあベル、打ち合わせを進めよう!」
ご機嫌なセドリック王子の声で、わたしを見るベリアルの呟きは届かなかった。